森林の管理や活用は、広大なエリアを対象とするため、効率的かつ正確なデータの取得・分析が欠かせません。従来の紙の地図や経験則に頼る方法では限界があり、より精度の高い管理手法が求められています。

森林GISを活用することで、広大な森林の管理や資源の最適な利活用が可能になります。今回は、GISの基本や森林GISの具体的な活用事例、業務改善の手法、さらには導入に役立つ製品・サービスを詳しく解説します。森林に関わる技術者や専門職の方にとって、業務の効率化や精度向上に役立つ内容となっていますので、ぜひご覧ください。

GISとは

GIS（Geographic Information System：地理情報システム）とは、地理的な位置情報を基にデータを管理・分析し、可視化することで高度な判断を可能にする技術です。簡単に言えば、「地図の上にさまざまなデータを重ね、分析や意思決定を支援するツール」です。

従来の紙の地図には「道路」「建物」「地区名」といった情報が描かれていますが、GISでは、デジタル地図上に「標高」「人口密度」「気温」「鳥獣保護区」などのデータを重ねて表示できます。これにより、情報を視覚的にわかりやすく整理し、分析の精度を高めることが可能になります。

GISの活用例としては、次のような分野が挙げられます。

分野	概要
災害対策	地震の被害が大きくなりそうなエリアを特定し、避難所の適切な配置を決定する。
都市計画	交通量データを基に、新しい道路の最適な建設場所を決定する。
マーケティング	店舗の売上データと人口分布を分析し、新規出店の最適地を選定する。
森林保護計画	植林エリアの成長状況をモニタリングし、環境変化に応じた適切な伐採計画を策定

このように、GISはさまざまな分野で活用され、データに基づく合理的な意思決定を支援する強力なツールとなっています。

森林GISとは

森林GISとは、森林の管理・活用・保護を目的としたGIS（地理情報システム）です。

広大な森林を対象とする業務では、膨大なデータを効率的に管理・分析する必要があり、GISの活用によって精度の高い意思決定が可能になります。通常のGISと異なり、森林GISでは森林に特化したデータを取り扱います。

具体的には、樹種、森林の成長状況、土壌特性、炭素貯蔵量、生態系データなどが含まれます。これらのデータは、一般的な地理情報やGPS測位データに加え、衛星画像、ドローンによる空撮、LiDAR（レーザー測量）を用いた3D点群データなど、多様なソースから取得されます。

森林GISを活用することで、森林資源の適切な管理や持続可能な活用が可能になり、効率的な森林経営や環境保護に貢献します。

森林GISの活用方法

森林の適切な管理には、膨大なデータの収集・解析・共有が不可欠です。しかし、従来の手法では情報の整理や分析に時間がかかり、現場との連携もスムーズに進まないことが課題でした。

森林GISを活用すれば、データの一元管理、可視化による迅速な分析、リアルタイムの情報共有が可能になり、業務の生産性と精度が大幅に向上します。ここでは、森林GISがどのように活用できるのか、その具体的な方法を解説します。

• データ管理
• 資料作成
• 情報共有

データ管理

森林GISを活用することで、広大な森林データを効率的に管理・分析できます。

森林管理には、地図データや作業記録、帳簿データなど膨大な情報を長期間にわたって保管・管理する必要があります。しかし、従来の紙の地図やExcel管理では、データの検索に手間がかかり、情報の更新も煩雑で分析作業が困難でした。

森林GISを導入することで、森林の位置情報と各種データ（樹種、樹齢・成長状況、土壌・地形、CO₂吸収量など）を一元管理し、リアルタイムで更新・可視化できます。さらに、異なるデータを組み合わせて分析することで、伐採計画の最適化や持続可能な森林経営の推進が可能になります。

資料作成

森林GISは、視覚的にわかりやすい資料作成にも役立ちます。

森林に関するデータは位置情報と密接に関係しているため、GISを活用することで必要な情報を素早く抽出し、効果的な資料を作成できます。たとえば、森林火災リスクマップを作成する場合、次のようなデータをGIS上で重ね合わせることで、危険地域を特定できます。

• 過去の森林火災発生地点
• 気温・湿度・降水量データ
• 燃えやすい樹種の分布
• キャンプ場・住宅地の分布
• 風向き・傾斜データ

このようにGISを活用することで、消防隊や自治体は危険地域を事前に把握し、対策を計画できます。また、住民向けのわかりやすい防災マップの作成も可能になります。

情報共有

森林GISを導入することで、現場と事務所間の情報共有をリアルタイムで行えます。これにより、業務の迅速化と意思決定の精度向上が期待できます。

具体的には、次のような場面で効果を発揮します。

• 伐採エリアの変更や調整を即座に反映し、計画をスムーズに修正する
• 樹木の害虫被害や病害の情報を現場で記録し、迅速に対応する
• 衛星画像を活用し、違法伐採の発生地点を即時共有し、素早く取り締まりを実施する
• 森林火災発生時の情報をリアルタイムで共有し、最適なルートで消防隊を派遣する

さらに、国や地方自治体が公開しているオープンデータを活用すれば、森林管理の精度と効率が向上します。林野庁や地方自治体は、航空写真、3D地表面データ、樹種ポリゴン、微地形図など、多くのデータを無料で提供しており、これらを組み合わせることで、広大な森林のデータ取得コストを削減し、最小限の現場作業でGISを活用できるようになります。

このように、森林GISは単なるデータ管理ツールではなく、業務の効率化、情報共有の迅速化、意思決定の精度向上を実現する強力な手段となります。

森林GISを導入するメリット

森林GISの導入により、データの一元管理と情報共有が効率化され、森林の管理・活用・保護における意思決定の精度が向上します。森林GISを活用することで、広大な森林に関する膨大なデータを統合的に管理し、業務の生産性を大幅に向上させることが可能です。ここでは、主なメリットを解説します。

• データの管理・共有の効率化
• データの複合解析

データの管理・共有の効率化

森林GISを活用することで、森林に関する情報を体系的に整理し、必要なデータの取得や共有をスムーズに行えます。

• 広大な森林の地理情報を統合的に管理・整理でき、データの検索や活用が容易になる。
• 必要なデータのみを抽出し、可視化・分析が可能になり、業務の効率化を実現できる。
• リアルタイムで情報共有できるため、関係者間の連携を最適化し、迅速な対応が可能。
• 林野庁や地方自治体が提供するオープンデータを活用し、最新の情報を容易に取得できる。

データの複合解析

森林GISは、森林に関するさまざまなデータを統合し、複合的な分析を可能にします。

• 気象情報・道路情報・施設情報・ハザード情報など、位置情報と関連づけた多様なデータを統合的に解析できる。
• 森林の活用・管理・保護・防災計画を、データに基づく合理的な判断により最適化できる。

このように、森林GISを活用することで、業務の効率化だけでなく、精度の高い意思決定や持続可能な森林経営が実現可能になります。

森林GISのデメリットと対策

森林GISは多くのメリットをもたらしますが、導入や運用には一定の課題も伴います。特に、専門人材の確保、データの維持管理、設備投資といった点が課題となり得ます。しかし、適切な対策を講じることで、これらのデメリットを軽減し、森林GISの導入効果を最大化することが可能です。ここでは、主な課題とその解決策について解説します。

• 人材の確保と育成
• データの維持管理コスト
• 設備投資の負担

人材の確保と育成

森林GISを適切に運用するには、GISソフトウェアやデータ解析、測量機器の操作に関する専門知識が求められます。しかし、こうしたスキルを持つ人材は限られており、確保や育成にコストがかかることが課題となります。

この問題を解決するには、GIS技術の習得を支援する研修プログラムや技術サポートを充実させることが有効です。企業や自治体は、GISの基礎から実践的な活用までを学べる研修を設けることで、社内での技術力向上を図ることができます。また、専門家によるコンサルティングを活用することで、導入初期の負担を軽減し、スムーズな運用を実現できます。

データの維持管理コスト

森林GISは、最新のデータを正確に管理・運用することでその真価を発揮します。しかし、森林の状態は時間とともに変化するため、定期的なデータ更新が必要となり、その維持管理にはコストと手間がかかります。特に、GPS測量やドローン撮影などの現場作業は負担が大きくなりがちです。

この課題に対応するには、リアルタイムデータ更新が可能なリモートセンシング技術（衛星データやドローンの自動運行システム）を活用することが効果的です。これにより、現場に赴かなくても最新の森林情報を取得でき、管理業務の負担を軽減できます。また、林野庁や地方自治体が提供するオープンデータを活用することで、データ取得のコストを抑えつつ、正確な情報を得ることが可能です。

設備投資の負担

森林GISの導入には、ソフトウェアの購入や測量機器（GNSS受信機、LiDAR、ドローン、サーバーなど）の整備が必要となり、初期投資の負担が大きいことが課題です。特に、高精度なデータを取得するための計測デバイスは数百万～数千万円規模のコストがかかる場合もあり、特に中小規模の事業者にとっては導入のハードルとなります。

この問題を解決するためには、オープンソースGISソフトの活用や、導入前のコンサルティングを受けることで、コストを抑えたシステム構築を行うことが有効です。また、各種補助金制度を活用することで、初期投資の負担を軽減できます。

森林GIS導入に活用可能な補助制度

森林GISの導入を支援するため、政府や自治体では様々な補助金制度を提供しています。以下の制度を活用することで、導入コストの一部を補助し、経済的な負担を軽減できます。

• 林業・木材産業循環成長対策交付金（林野庁）：森林資源の循環利用を目的とし、林業機械の導入や路網整備を支援する制度。
• 林業・木材産業成長産業化促進対策交付金（林野庁）：持続的な林業確立のため、路網整備や木材加工流通施設の整備を支援する制度。
• IT導入補助金（経済産業省）：中小企業向けのITツール導入支援制度で、森林GISソフトウェアの導入も対象。
• 都市空間情報デジタル基盤構築支援事業（PLATEAU補助制度）（国土交通省）：3D都市モデルの整備・活用を支援する補助事業で、森林GISとの連携も可能。

森林GISに活かせる計測機器・サービス

森林GISは、位置情報データを正確に取得する計測機器と組み合わせることで、真の価値を発揮します。GISソフトウェアを導入するだけでは十分ではなく、高精度な測位技術を活用することで、森林管理や資源活用の精度が向上します。最後に、森林GISと連携して使用できる主要な計測機器を紹介します。

高精度かつコンパクトなGNSS受信機「Geode」

「Geode」は、森林GISに必要な高精度の位置情報を簡単に取得できるGNSS受信機です。軽量かつコンパクトな設計で、フィールドワークに適しており、持ち運びが容易です。サブメーター精度の測位が可能で、Windows・Android・iOSデバイスと連携してリアルタイムでデータを取得・表示できます。

また、運用の柔軟性も高く、用途に応じた装着方法が可能です。たとえば、ポールに取り付けて測量に活用したり、ハンドヘルドアタッチメントを使用してマッピングを行ったり、マグネットマウントで車載用として運用することもできます。これにより、森林GISの活用範囲が広がり、現場での位置情報取得がより容易になります。

現場作業に最適なモバイルデバイス「G47」

「G47」は、森林GIS向けに設計されたモバイルデバイスで、GNSS機能を内蔵し、位置情報付きのデータを即座にGISに共有できる点が特長です。GNSS（GPS/GLONASS/BeiDou/QZSS）に対応しており、写真撮影時に位置情報を付与することで、現場の状況を詳細に記録できます。

また、フィールドワークを想定した軽量設計で、長時間の作業でも負担が少なく、バッテリー駆動時間は最大10時間と十分な性能を備えています。これにより、森林調査や災害時の現場記録、森林資源のモニタリングなど多岐にわたる用途で活躍します。

「Geode」と「G47」を組み合わせたハンドヘルドマッピングシステム

「Geode」と「G47」を組み合わせることで、GISデータの収集と可視化を一体化したハンドヘルドマッピングシステムを構築できます。

「Geode」で取得したGNSS位置情報を「G47」に送信し、森林GISアプリケーションにリアルタイムで記録・保存することで、現場での測位とデータ入力が一度に完結します。このシステムを活用することで、測量や森林資源の管理がより効率的に行え、紙ベースでの記録や後処理作業の負担を軽減できます。

広範囲の3Dデータ取得が可能なハンドヘルドスキャナー「X120GO」

「X120GO」は、森林の三次元データを高精度に取得できるハンドヘルド型スキャナーです。手に持って歩くだけで、広範囲の3Dデータを収集できるため、従来の測量手法と比べて作業効率が大幅に向上します。

このスキャナーは、最大120mの測定範囲を持ち、高い樹木が密集する森林でも正確なデータ取得が可能です。さらに、取得したデータには位置情報が付与されるため、森林GIS上で詳細なマッピングや分析を行うことができます。

「X120GO」で得られる3Dデータは、森林伐採計画、林道整備計画、災害対策など、さまざまな用途で活用でき、森林管理の精度を飛躍的に向上させます。

まとめ

森林GISは、膨大な森林データを統合し、効率的な管理・分析を可能にする技術です。従来の手法では困難だった森林の成長状況や土壌特性、生態系データの一元管理ができ、伐採計画の立案や森林火災のリスク評価、違法伐採の監視などに活用されています。リアルタイムでの情報共有により、現場と事務所の連携が強化され、迅速な意思決定が可能になります。

一方で、専門人材の確保やデータ維持のコスト、高額な設備投資といった課題もあります。しかし、研修プログラムの導入やリモートセンシング技術の活用、補助金制度を活かすことで、これらの課題を軽減できます。

森林GISの効果を最大限に引き出すには、適切な計測機器が不可欠です。高精度なGNSS受信機「Geode」やモバイルデバイス「G47」により、現場での位置情報取得とGIS連携がスムーズに行えます。また、3Dスキャナー「X120GO」を活用すれば、森林データをより精密に取得し、持続可能な森林管理に貢献できます。

森林GISの導入により、森林資源の有効活用と環境保全の両立が可能となります。今後、より高度な技術の活用が進めば、持続可能な森林経営の基盤としてさらなる発展が期待されます。