広範囲の敷地や建物を正確に3Dデータ化するには、SLAMによる移動計測だけでなく、取得したデータを正しい位置情報と結び付ける技術が重要です。
近年、機材を持って歩くだけで空間を立体的に記録できるSLAMが注目されていますが、単独では地球上の正確な座標と紐付かないため、計測距離が長くなるほど点群データに歪みや位置ズレが生じる場合があります。この課題を補正し、センチメートル級の高精度な位置情報を付与できる技術が、日本の準天頂衛星「みちびき」が提供するCLASです。
今回は、CLASの基本的な仕組みやSLAMとの関係、点群データをCAD化してシミュレーションや設備管理に活用するメリットを解説します。
なお、アジルジオデザインではインフラ・測量分野で豊富な実績を持っており、最新の衛星測位と3Dスキャンを組み合わせた機器を提供しています。
▼この記事のポイント
- CLASとは、準天頂衛星「みちびき」を活用したセンチメートル単位の高精度測位サービス
- 従来のGPS単独測位で生じる数メートル単位の誤差を補正し、より正確な位置情報を取得できる
- SLAMや3D点群データと組み合わせることで、建物・設備・敷地の現況を正確な座標情報と紐付けられる
- CLASを活用すれば、設備搬入やレイアウト変更時の干渉確認、動線検討、手戻り防止に役立つ
高精度位置情報を支える新技術CLASの概要
測量・建設・設備管理などの現場で正確な位置情報を扱うには、従来のGNSSやGPSだけでは精度が不足する場合があります。スマートフォンの地図アプリでもわかるように、衛星測位では数メートル規模のズレが発生することがあり、一般的なナビゲーションでは許容できても、施工や設備配置の現場では大きな問題になりかねません。
特に、建物や設備、敷地境界を正確に把握する必要がある場面では、センチメートル単位の位置精度が求められます。ここでは、こういった課題を解決し、高精度な位置情報の活用を支えるCLASの概要について解説します。
GPSの技術的限界
一般的にGPSと呼ばれる測位技術は、アメリカが運用する衛星測位システムを利用して現在地を把握する仕組みです。
GPSによる単独測位では、電波が電離圏や対流圏を通過する際の大気遅延、衛星軌道のわずかな誤差、衛星に搭載された時計のズレなどの影響を受けます。さらに、建物の壁や鉄骨、周囲の地形に電波が反射してから受信機に届くマルチパス現象も、測位結果を狂わせる要因になります。
そのため、従来のGPSだけでは数メートル程度の誤差が発生することがあります。
この数メートルのズレは、工場や施設のレイアウト変更、配管の更新工事、設備の搬入計画などでは大きなリスクになります。たとえば、大型製造装置の設置位置が数センチメートルずれるだけでも、既存の配管や柱と干渉し、据え付けができなくなる可能性があります。
その結果、現物合わせの修正工事や再調整が発生し、当初は短期間で終わるはずだった工事が長期化することもあります。生産ラインの停止期間が延びれば、企業にとって大きな損失につながるため、建物の配置、敷地境界、設備位置の把握には、メートル単位ではなくセンチメートル単位の正確性が必要です。
CLASの仕組み
従来のGPSが抱える測位誤差を補正し、日本国内でセンチメートル級の高精度測位を可能にする技術が、準天頂衛星「みちびき」によるCLASです。CLASは、日本全国に設置されている国土地理院の電子基準点データを活用し、衛星測位で発生する誤差を補正する仕組みです。
電子基準点で観測されたデータをもとに、大気遅延や衛星軌道などに由来する誤差を解析し、その補正情報を準天頂衛星「みちびき」へ送信します。現場の受信機は、みちびきから送られるL6信号の補強情報を受信することで、より正確な現在地を算出できます。この仕組みにより、CLASは従来のGPS単独測位よりも高い、数センチメートル級の測位精度を実現できます。
また、従来の高精度測位で必要だった現場付近への基準点設置や、インターネット経由での補正データ受信に依存しにくいことも特徴です。補強情報は衛星から直接送信されるため、通信環境が安定しにくい場所でも活用しやすく、専用の受信機があれば高精度な位置情報を取得できます。
そのため、測量・建設・インフラ管理・設備管理など、正確な座標情報が求められる現場での活用が期待されています。
CLAS活用のために必要な手順
CLASを活用するために、大掛かりなインフラ構築や特別な測量環境を新たに整備する必要はありません。
まず必要になるのは、CLASのL6信号に対応したGNSSアンテナや受信機を選定することです。近年は、従来のような大型で高価な機材だけでなく、ハンディタイプやヘルメットに装着できる小型の機器も登場しており、現場で扱いやすい製品を選びやすくなっています。
次に、受信機と連携するスマートフォンやタブレットに、位置情報管理や3Dデータ表示に対応した専用アプリケーションを導入します。これにより、現場で取得した高精度座標を確認したり、図面データや点群データと重ね合わせたりすることが可能になります。
最終的には、自社の業務内容に合った機器とソフトウェアを組み合わせ、計測・確認・データ活用までの流れを現場運用に組み込むことで、CLASを実務で活用できる体制を整えられます。
SLAM技術と点群データが変えるシミュレーション
CLASが地球上の正確な位置情報を取得する技術であるのに対し、現場の建物や設備、配管などを立体的にデータ化する技術がSLAMです。CLASとSLAMを組み合わせることで、現実の空間を正しい座標情報と紐付けた3Dデータとして扱えるようになり、設備搬入やレイアウト変更の事前検証にも活用しやすくなります。
ここでは、SLAM技術の概要と、点群データのCAD化によって可能になるシミュレーションについて解説します。
SLAM技術の概要
従来の測量や3Dデータ化では、三脚に固定して使用する地上型3Dレーザースキャナーが多く用いられてきました。
固定式スキャナーは1箇所ごとに機材を据え付けて計測する必要があり、測定位置を変えるたびに三脚を移動・設置しなければなりません。そのため、広い敷地や複雑な建物内部を計測する場合、多くの時間と手間がかかります。
また、機材から見通せる範囲しか計測できないため、配管の裏側や大型設備の陰などに死角が生じやすく、計測漏れを防ぐには多数の設置ポイントを確保する必要がありました。こうした課題を解決する技術が、自己位置推定と地図作成を同時に行うSLAMを搭載したハンディ型スキャナーです。
作業者が機材を持って現場を歩くだけで、周囲の壁、柱、設備、配管などをリアルタイムに認識し、自分の位置を推定しながら空間を3Dデータ化できます。固定式のように各地点で立ち止まる必要がないため、計測時間を大幅に短縮でき、さまざまな角度から対象物を捉えられるため死角も抑えやすくなります。
取得されたデータは、無数の点に位置情報を持たせた3D点群データとして出力され、現場の状況をパソコン上で立体的に確認できるシミュレーションデータとして活用できます。
CLASとSLAMのデータ結合の最新技術
SLAMは歩きながら広範囲の空間を効率的に3Dデータ化できる一方で、単独では長距離の計測時に位置ズレや歪みが生じやすいという課題があります。
連続して取得した周囲の形状を照合しながら自己位置を推定する仕組みのため、移動距離が長くなるほど小さな誤差が蓄積されます。その結果、データ全体がわずかに歪んだり、計測の開始地点と終了地点をつなげた際に位置が合わなかったりする場合があります。
この課題を補う方法として、CLASで取得した高精度な絶対座標とSLAMの点群データを結合する技術が活用されています。
計測の起点や要所に、CLASで測位した緯度・経度・標高などの正確な座標を基準点として設定し、その座標をもとにSLAMデータを補正します。これにより、ソフトウェア上で点群データの歪みやズレを調整し、現実の位置関係に近い3D空間データとして整えることが可能です。
広い敷地や複雑な施設で取得したデータでも、地球上の正しい位置情報と紐付いた、信頼性の高い3D点群データとして活用しやすくなります。
移動シミュレーションへの応用
CLASによって正確な位置情報と紐付けられた3D点群データは、設備搬入やレイアウト変更などの移動シミュレーションに応用できます。取得した点群データを専用のモデリングソフトで処理することで、柱、梁、壁、配管、既存設備などの構造物を識別し、3DCADモデルとして扱える形に変換できます。
この3DCADデータを活用すれば、現場に近いデジタル空間上で、設備の搬入経路や設置位置、既存構造物との干渉を事前に確認できます。
たとえば、大型設備が通路を通過できるか、配管や梁と接触しないか、作業員やフォークリフトの動線に支障がないかを、実際の工事前に検証することが可能です。これにより、現場での手戻りや施工トラブルを抑え、より安全で効率的な計画立案につなげられます。
CLAS、点群シミュレーション導入時のメリット
CLASによる高精度測位と、SLAMによる点群データの取得・シミュレーションを組み合わせることで、工事前の検証精度を高め、施工時の手戻りや管理コストの削減につなげられます。特に、設備搬入やレイアウト変更、維持管理の現場では、現況を正確な3Dデータとして把握できることが大きな強みになります。
ここでは、CLAS・点群シミュレーションを導入する主なメリットについて解説します。
- 効率的で安全性を考慮した動線シミュレーションの事前検証が可能になる
- デジタル資産化によるコスト最適化につながる
効率的で安全性を考慮した動線シミュレーションの事前検証が可能になる
従来のレイアウト変更では、2次元の平面図面をもとに計画を立てることが一般的でした。
しかし、平面図だけでは高さ方向の情報や、現場に残る細かな設備・配管の状況を十分に把握できない場合があります。そのため、工事当日に図面上では確認できなかった配管や梁、既存設備と新しい設備が干渉し、搬入経路や設置位置の見直しが必要になるケースもあります。
CLASとSLAMを組み合わせた3Dデータを活用すれば、現場に近いデジタル空間上で、事前に干渉箇所や動線上の課題を確認しやすくなります。これにより、搬入や設置に関わる手戻り、修正工事、生産ライン停止のリスクを抑えられます。
さらに、設備同士の間隔や、フォークリフト・作業員の通行経路を3D空間上で確認できるため、作業効率と安全性の両面を考慮したレイアウト検討が可能です。実際の現場を止める前に複数の配置案を比較できるため、施工計画の精度を高め、より効率的で安全な動線設計につなげられます。
デジタル資産化によるコスト最適化につながる
3D空間データの取得・蓄積は、工事や設備移設のためだけに使う一時的な資料ではなく、将来の維持管理にも活用できるデジタル資産になります。
現場の3Dデータをクラウドなどで共有すれば、本社の設計担当者、保全担当者、外部の施工業者などが、同じ現況データを見ながら打ち合わせを行えます。現地に何度も足を運んで寸法を測り直す手間を減らせるため、出張費や人件費、確認作業にかかる時間の削減にもつながります。
また、一度作成した高精度な空間データは、将来の外壁修繕、配管交換、レイアウト変更、図面修正などにも継続して活用できます。
度重なる改修によって、現在の状況を正確に反映した図面が残っていない現場では、設備や配管の位置がブラックボックス化しやすくなります。空間情報をデジタル資産として整備しておけば、必要なときに正確な現況を確認でき、施設のライフサイクル全体を通じた維持管理コストの最適化に役立ちます。
まとめ
CLASは、従来のGPS単独測位では難しかったセンチメートル単位の位置情報取得を可能にし、建物や設備、敷地の現況を正確な座標情報と結び付けるための重要な技術です。
SLAMによる3D点群データの取得と組み合わせることで、現場空間を立体的に把握できるだけでなく、CAD化による事前シミュレーションにも活用しやすくなります。これにより、設備搬入やレイアウト変更時の干渉確認、動線検討、手戻りの抑制などにつながり、工事計画の精度向上や生産ライン停止リスクの低減に役立ちます。
また、取得した3D空間データは、その場限りの工事資料ではなく、将来の修繕、配管交換、増改築、図面更新にも活用できるデジタル資産になります。現況を正確に反映したデータを蓄積しておくことで、関係者間の情報共有がしやすくなり、現地確認や測り直しの手間も削減できます。
CLASとSLAM、点群データの活用は、測量・建設・インフラ管理の効率化だけでなく、施設全体のライフサイクルコストを最適化する手段としても有効です。
アジルジオデザインでは、CLASやSLAMをはじめとする空間情報技術、3Dスキャン、測位技術を活用し、測量・建設・インフラ分野における高精度な3D空間データの取得から、デジタルツイン構築・シミュレーションに活用できる機器の導入まで支援しています。
設備の移設やレイアウト変更でのトラブルを防ぎたい方、点群データをCAD化して業務に活用したい方は、アジルジオデザインまでお気軽にご相談ください。




