気候変動に伴う集中豪雨や巨大地震など、近年は自然災害の激甚化・頻発化が深刻な課題です。発災時に状況を素早く把握し、インフラを早期に復旧するには、デジタル技術を駆使した防災DXの推進が欠かせません。
災害対応で注目されているのが、高精度な位置情報をリアルタイムに取得できるGNSS(全地球航法衛星システム)の活用です。本記事では、GNSSの基礎知識をはじめ、防災・減災や発災後の復旧における具体的な活用事例を解説します。
アジルジオデザインは、こうした最先端のGNSSや高精度測位ソリューションを軸として、企業の防災DXやインフラ監視システムに用いる機器を提供しています。
▼この記事のポイント
- GNSSは、予防監視から被災状況の把握、復旧まで災害対応を支えます。
- マルチGNSSやRTK測位は、斜面・構造物の変位監視やドローン測量に活用できます。
- GISなどとのデータ統合は、遠隔監視や避難・復旧の意思決定を迅速化します。
- 通信障害やマルチパス、誤検知への対策が、信頼性の高いGNSS導入には必要です。
災害対応におけるGNSSの基礎知識
災害対応にGNSSを効果的に活用するには、位置情報の重要性と、それを支える測位技術の仕組みを理解することが重要です。本章では、GNSSの基本と災害時に果たす役割を解説します。
GNSSとは
GNSSとは、Global Navigation Satellite Systemの略称で、世界各国の衛星測位システムを包括する総称です。GPSはアメリカが運用する衛星測位システムを指すのに対し、GNSSにはGPSのほか、ロシアのGLONASS、欧州連合のGalileo、中国のBeiDouなどの全球測位衛星システムが含まれます。
さらに、特定地域をカバーする地域測位衛星システムもあり、代表例が日本のみちびき(QZSS)です。みちびきは日本の天頂付近を飛行する時間が長く、測位精度を補完・補強する準天頂衛星システムとして併用されます。このように、全球測位衛星システムと地域測位衛星システムを組み合わせて利用します。
防災やインフラ監視では、多様な衛星システムを利用できるマルチGNSS環境の構築が重要です。日本の険しい山間部や深い谷地形、高層ビルが立ち並ぶ都市部、樹木・構造物の周辺では、衛星から届く電波信号が遮蔽・反射されやすいためです。
単一の衛星システムに依存すると、受信できる衛星数が不足し、必要な精度を得られない場合や、測位自体が不可能になる場合があります。複数の衛星システムを同時利用するマルチGNSSなら、常時数十機以上の衛星から信号を受信でき、悪条件下でも衛星数の確保や測位の安定性向上が期待できます。
災害時における位置情報の役割
災害対応では、位置情報があらゆる意思決定の根幹となります。不正確な情報は、救助隊の派遣先の誤りや復旧資材の投入遅延を招き、二次災害による人的被害を拡大させかねません。
一方、従来の現地測量や目視点検には、夜間・悪天候時の作業、危険な被災現場への立ち入り、それに伴う人的コストの増加といった課題がありました。崩落の恐れがある斜面に測量技師や点検員を立ち入らせることは、重大なリスクを伴ううえ、時間とコストも必要です。
位置情報は、災害のタイムラインを構成する3つのフェーズで異なる役割を果たします。各フェーズに応じた位置情報の活用が極めて重要です。
| フェーズ | 役割 |
| 予防・減災フェーズ | インフラや危険斜面の経年変化、微小な地殻変動を常時監視します。 |
| 直後対応・避難フェーズ | 発災直後の被災エリアや道路の寸断状況を迅速に特定し、安全な避難・救助ルートを確保します。 |
| 復旧・復興フェーズ | 重機の自動運転や情報化施工を活用して安全かつ高速に土砂を撤去し、重要インフラを正確な位置へ復元します。 |
GNSSを利用した遠隔・自動監視は太陽光を必要とせず、雲や霧、大雨などの天候の影響を受けにくいため、24時間365日の継続監視が可能です。現場へ人を派遣せず、安全な場所から状況を確認できるため、省人化と安全性の向上も期待できます。
災害対応を高度化させる高精度測位技術
災害対応には、一般的なGNSS測位よりも高精度な位置情報が必要です。
スマートフォンやカーナビゲーションに搭載されるGNSS測位は、誤差が十数メートルに及ぶため、日常のナビゲーションには十分でも、インフラのわずかな傾きや斜面崩落の予兆を捉える用途では致命的な差となります。そこで、高精度測位技術が活用されます。
代表的な高精度測位技術が、基準局からの補正データを使い、移動局の位置をリアルタイムに数センチ精度で特定するRTK測位です。RTK測位では、位置が完全に分かっている場所に置く基準局と、位置を求める移動体に置く移動局を使用します。
基準局は、受信した衛星信号から電波の誤差をリアルタイムに計算して補正データを作成し、移動局へ送信します。これにより、移動局は数センチメートルの精度で自己位置をリアルタイムに特定できます。
自前の基準局を置けない現場では、携帯回線などを通じて補正情報を受信するネットワーク型RTKも利用できます。全国の電子基準局などの観測データをもとに仮想的な基準局の補正データを作り、クラウド経由で配信する仕組みです。
基準局を自前で設置しなくても、センチメートル級の高精度測位を利用できます。ただし、ネットワーク型RTKは地上通信網に依存するため、通信網が途絶した被災地では利用が制約される点に注意が必要です。
RTK測位や、固定観測点で長期間データを蓄積・解析するGNSS連続観測による変位監視は、気象や周辺環境の条件が整えば、斜面や構造物の数センチメートル程度の変位を把握できます。この微小な動きを捉える解像度は、目視では気づけない地すべりなどの予兆把握に役立つ場合があり、大規模崩壊の前に対策を講じるための手掛かりとなります。
GNSSによるインフラ・構造物監視の概要
GNSSによる高精度なリアルタイム変位計測は、災害発生前の予防監視から発災後の状況把握まで幅広く活用できます。本章では、土砂災害、河川堤防・ダム・港湾施設の継続的かつ安全な変位監視と、ドローンによる被災状況の3次元化を通じて、具体的な方法を解説します。
土砂災害におけるリアルタイムモニタリング
土砂災害の被害を抑えるには、危険斜面の変動を継続的に捉え、予兆を早期に把握することが重要です。
国土の多くが山林である日本では、台風や梅雨・秋雨前線による大雨、突発的な地震により、各地で崖崩れや地すべり、土石流が発生しています。これらは一瞬で人家や道路をのみ込むため、事前の監視が欠かせません。
具体策として、土砂災害の危険性が高い傾斜地や山間部にGNSSセンサーを多点配置する方法があります。地面に打ち込んだ杭や代表点にアンテナを固定し、座標データを常時サンプリングします。環境条件が整っていれば、センチメートル単位、あるいはミリメートル単位の斜面変動を継続的に把握できます。
このシステムの特に大きな価値は、大雨や台風などの危険な気象条件下や夜間でも、現場へ一切人員を派遣せず、安全なオフィスや監視センターから現地の状況を継続的かつ正確に把握できる点です。点検員を危険な現場に立たせる必要がなく、遠隔監視によって安全性を高められます。
監視システムには、早期アラートの運用を組み込むと効果的です。変位速度や累積変位量が設定した閾値を超えた際にアラートを発報する仕組みを構築すれば、自治体や管理者の判断を強力に支援できます。避難勧告を出す時期や道路を通行止めにする時期を、客観的なデータに基づいて判断することが可能です。
河川堤防・ダム・港湾施設の変位計測
大型水利インフラや沿岸インフラも、激甚化する大雨や津波のリスクに直面しています。
特に長大な河川堤防は、場所ごとに地盤強度が異なるため、軟弱地盤の一部で沈下が起こり、堤防の高さが局所的に低下する恐れがあります。この状態は、大雨時の決壊につながる原因となります。GNSSセンサーを設けた観測点を使えば、長大な河川堤防の沈下・変位や軟弱地盤の圧密沈下を継続的に把握できます。
ただし、堤防崩壊には地表面の動きだけでなく、内部への水の浸透や、堤防が外側へ押し出される孕み現象など、さまざまな要因が関係します。そのため、堤防のはらみや局所変形は、GNSSに加えて傾斜計・水位計・現地点検などを組み合わせて評価することが望まれます。
大量の水圧を受け続けるダムや、波浪・地震の衝撃にさらされる港湾施設でも、経年劣化による微細な傾きや変形を長期監視し、構造物の健全性を測る予兆管理が可能です。GNSSデータはデジタルな座標値としてクラウドに集約できるため、従来は個別管理されていた広範囲のインフラを一元的に把握できます。これにより、効率的なインフラマネジメントの実現に寄与します。
ドローンとGNSSによる被災状況の3次元化
災害によって地形が大きく変わった後は、被災状況を正確に把握する必要があります。そこで効果を発揮するのが、高精度なGNSS技術と組み合わせたドローンの活用です。
従来のドローン写真測量では、撮影画像の位置関係を正確に補正するため、危険な被災現場に入り、目印となる対空標識を多数設置して各地点を測量する必要がありました。TK/PPK対応ドローンなら、写真撮影時の正確な位置情報をセンチメートル精度で記録できます。そのため、対空標識や標定点の設置数を削減できる場合があります。
ただし、ドローンの測位精度が高くても、外的要因による誤差をすべて排除できるわけではありません。成果物の精度を確実に担保するには、検証点の設置や、写真測量・点群処理後の精度確認が重要です。
こうして生成した高精度な3次元モデルは、災害対応の迅速化に役立ちます。崩落前後の地形データをデジタル上で比較すれば、土砂量や崩落規模を即時に計算でき、必要なダンプカーの手配数や復旧工期も素早く割り出せます。
また、ヘリコプターからの目視や地上写真だけでは把握しきれない広域被災地を3次元モデル化し、関係機関が共有する情報基盤を作成できます。自治体、警察、消防、自衛隊、復旧を担う建設業者が同じ状況認識を持ち、迅速に対応方針を検討するためのプラットフォームとなります。
データ統合による位置情報技術の発展
GNSSデータは、GISや他のセンサーデータと統合することで、単なる位置情報を超えた大きな価値を発揮します。本章では、データ統合による防災情報の可視化と具体的な活用に加え、現場ごとのカスタマイズの重要性を解説します。
GNSSデータとGISの統合による防災可視化
GNSSデータの有力な統合先が、GIS(Geographic Information System)です。GISは、デジタル地図上にさまざまな地理空間情報を重ね、管理・分析するシステムです。
GNSSが出力する時系列の位置情報を、ハザードマップや避難所情報などのGIS情報とリアルタイムに重ね合わせることができます。これにより、単にセンサーの数値が変化したという情報を、どの警戒区域の斜面センサーが動いたのか、周辺の避難所は開設されているのかといった、意思決定に直結する情報へ変えられます。
このデータ統合は、発災直後の状況を踏まえた、孤立集落への物資輸送ルートなどの自動選定にも活用できます。例えば、ドローン測量やGNSS監視で主要道路の土砂崩れによる寸断が判明した場合、GISシステムがそのルートを除外し、被災を免れた道路ネットワークをつなぎ合わせます。その結果、安全かつ最速なルートを割り出し、ナビゲーションシステムへ配信できます。
カスタマイズ型防災ソリューションの重要性
実効性のある防災DXには、対象となる現場に合わせたソリューションのカスタマイズが必要です。守るべき対象や直面する課題は、業界や組織によって大きく異なるため、汎用的なパッケージをそのまま導入するだけでは十分とは限りません。
建設業では、崩落リスクのある現場で作業を早く安全に進めるため、重機ガイダンスシステムや安全管理用GNSSモジュールの開発が重要です。建設機械にGNSSセンサーを組み込み、3D設計データと連動させて操作を補助する方法や、作業員のヘルメットに超小型モジュールを装着し、危険エリアへの立ち入りを検知する方法が該当します。
一方、鉄道・電力インフラでは、広大な路線網や山間部の送電鉄塔を効率よく見守るため、沿線斜面や鉄塔の長期変位監視システムが重要です。数年から数十年にわたるミリ単位の傾きや微小変位を継続的に蓄積・解析する必要があります。
構造物の特性、通信環境、予算規模、有事の運用フローに合わせ、堅牢な位置情報基盤をオーダーメイドで構築することが、実効性のある防災DXにつながります。
アジルジオデザインが提供する高精度測位技術
こうした高度で多様な位置情報のニーズに対し、アジルジオデザインはGNSSなどを活用した測量機器を提供しています。適切なGNSSハードウェアの選定を含め、課題の解決につながる機器を提案できます。
社内に技術的知見が不足している企業に対しても、要件定義の段階から並走し、最適な機器の提供を支援しています。
GNSS導入における今後の展望
GNSSを活用した災害対応システムを導入するには、技術面・費用面・運用面の各課題を踏まえた具体的な対策が必要です。最後に、企業や自治体が導入時に確認すべき主なリスクと対策、今後の技術動向を解説します。
衛星の配置の技術的課題と対策
GNSSは、宇宙空間の衛星から届く微弱な電波を地上で受信する仕組みのため、物理的な弱点があります。これらを理解して事前に対策することが、災害対応システムの信頼性を左右します。
課題①:RTK測位に必要な補正データを配信する携帯キャリア回線が寸断された場合への備え
第一の課題は、RTK測位に必要な補正データを配信する携帯キャリア回線が寸断された場合への備えです。大規模災害では携帯回線が完全に停止する可能性が高まるため、衛星通信によるバックアップやローカルネットワークの構築が重要です。
近年では、Starlinkなどの低軌道衛星通信システムを組み合わせる方法や、LPWAを活用して補正データを移動局へ独自に送る仕組みを準備する方法が有効です。
課題②:深い谷間や都市のビル街で生じる電波反射による精度低下
第二の課題は、深い谷間や都市のビル街で生じる電波反射による精度低下です。周囲の構造物に電波が反射して乱れるマルチパス現象や遮蔽に対応するには、3D都市モデルを使った衛星視通判定技術の導入が必要です。
事前に地形モデルで衛星配置をシミュレーションする方法や、内部の加速度を計測する慣性計測装置と複合させた航法を導入する方法が求められます。
課題③:一時的な電波の乱れによる数値の跳ね上がりの計測
第三の課題は、一時的な電波の乱れによる数値の跳ね上がりを、実際の斜面崩壊と誤認しないことです。
電波状態の悪化で生じるスパイクノイズによって不要なアラートを発報しないよう、データクレンジングのアルゴリズムや、変位の加速速度を考慮した閾値設計のノウハウを蓄積する必要があります。
導入コスト・運用体制の構築と費用対効果の検証
防災システムの導入では、性能だけでなくコストと運用体制も検討しなければなりません。高性能なGNSS受信機や固定局の設置費、常時通信に伴う初期費用とランニングコストを最適化する必要があります。近年は低価格の高精度モジュールも登場しており、過剰なスペックを避け、用途に合うシステム構成を設計することがコスト最適化の要点です。
投資対効果を検証するときは、防災システムを有事だけの掛け捨て保険と捉えず、平時と有事の双方で価値を発揮するフェーズフリーの視点が重要です。平時にはインフラの予防保全に活用し、深刻な破損の前にピンポイントで修繕することで、長寿命化とメンテナンスコスト削減を図ります。有事には事業継続計画として機能することも含めて効果を検証すれば、投資の妥当性が明確になります。
最新鋭のシステムでも、発災時に職員や作業員が使いこなせなければ機能しません。平時から定期的に防災訓練を行い、有事に操作できる体制を整える必要があります。直感的なUI/UXの設計と日頃の訓練が、システムの形骸化を防ぐ要点です。
次世代防災DXの未来
GNSSによる災害対応は、AIとの融合によってさらに高度化しようとしています。蓄積した時系列の変位データと気象データをAIに学習させ、土砂崩れの発生確率を数時間前に予測する防災アプローチが可能となります。AIが降雨量や土壌水分量と変位の相関を分析することで、受動的な防災から能動的な予測防御への転換が実現します。
さらに、自動運転車や自律飛行ドローンが日常に溶け込む社会では、GNSSを含む高精度測位基盤や地理空間情報基盤が、災害に強い都市づくりを支える重要なインフラになります。大規模地震の発生と同時に、正確な被災位置やインフラ寸断の情報が街の自律移動体へ同期されれば、自動運転車は危険エリアを避け、ドローンは自律的に救援物資を運べます。
人が意識しなくてもシステムが作動して災害から人々を守る、強靭なレジリエント・シティを構築するうえで、高精度な位置空間基盤は欠かせない存在となるでしょう。
まとめ
GNSS技術は、激甚化する災害への対応を、予防・減災から有事の迅速な復旧まで幅広く支える社会インフラの技術です。センチメートル単位のリアルタイム変位計測と、ドローンや自動化重機との連携は、人命の保護、二次災害の防止、復旧の迅速化につながります。
一方、導入時には通信障害への備え、マルチパス対策、膨大な地理空間データの高精度なフィルタリングと可視化など、高い専門性を要する課題があります。災害に強い事業基盤や最先端の測位ソリューションの機器導入をご検討の際は、アジルジオデザインへお気軽にご相談ください。




