スタティック法(静的測位法)は、GNSS測量において精度と安定性の根幹を支える重要な技術です。近年、RTK法やVRS法などのリアルタイム測位が注目されていますが、それらの信頼性や精度を実現するためには、スタティック法が欠かせません。

スタティック法は、複数の受信機を一定時間以上固定して観測を行うことで、ミリメートル〜センチメートル単位の高精度な測位を実現するGNSS観測の基本技術です。現在、リアルタイム観測が主流となっている一方で、スタティック法は基準点測量やネットワーク座標系の確立、長距離測位など、依然として高精度が求められる分野で広く利用されています。

今回は、スタティック法の原理や特徴を解説し、RTK法やVRS法との違いを明確にします。また、実際の測量現場での活用事例を紹介し、今後の測位技術の進化についても触れます。GNSS測量を支える静的観測の重要性を理解することで、現場ごとの最適な測位技術選定や高精度なデータ取得に役立てていただける内容を提供します。

スタティック法の概要

まずは、スタティック法の基本的な概念とその役割について解説します。スタティック法は、GNSS測量における精度を支える重要な手法であり、他の測位技術の基盤となるものです。

GNSS測量の基礎を支える「静的測位法」とは

スタティック法は、複数のGNSS受信機を観測点に固定し、同時に観測を行うことで得られる位相差(キャリア位相)を解析し、各観測点間の正確な位置関係を算出する手法です。この方法では、観測時間が通常30分〜数時間に及び、広範囲にわたる観測点間でもミリメートル〜センチメートル単位の高精度な位置を求めることが可能です。

スタティック法は、国家基準点の測量や地殻変動観測、長距離基線測量など、精度が特に重要な測量作業で広く使用されています。この手法は、すべてのGNSS測量における基準を作り、他の測位方法が依存する基盤となっています。

スタティック法の測位原理

GNSS衛星は、それぞれの軌道情報と時刻情報を電波に乗せて地上に送信しています。受信機は、この電波を受け取り、電波の到達時間を基に衛星までの距離を算出します。しかし、衛星時計や電離層・対流圏による信号遅延、大気条件などの誤差要因が影響を及ぼし、単独測位では数メートル〜数十メートルの誤差が生じることがあります。

スタティック法では、この誤差を打ち消すために相対測位(Differential positioning)を採用します。複数の受信機が同時に観測することで共通の誤差成分を相殺し、衛星信号の搬送波位相の差(キャリア位相差)を解析することにより、数ミリ単位の精度を達成します。

このようにして得られる相対位置情報は、地上基準点の確立や座標網の更新など、GNSS測位の根幹を支える重要なデータとして利用されています。

スタティック法が選ばれる主な理由

スタティック法が測量現場で広く選ばれる理由には、他の測量手法にない独自のメリットがあります。ここでは、スタティック法が特に重要とされる理由について解説します。

  • 長距離でも安定した高精度測位が可能だから
  • 電波環境に左右されにくいから
  • 観測データの再解析・品質検証ができるから

長距離でも安定した高精度測位が可能だから

RTKやVRSのようなリアルタイム測位技術では、基準局と移動局の距離が長くなると誤差が増大します。特に、RTKでは基準局から30kmを超えると誤差が目立つようになります。

しかし、スタティック法では基線長(観測点間距離)が数十〜数百kmに及んでも高精度を維持できます。これは、長時間の観測を通じて誤差を平均化し、複数の衛星データを統合して解析するためです。

そのため、国家座標網の整備や都市間ネットワークの精度確保など、広範囲の測量には今もスタティック法が欠かせません。

電波環境に左右されにくいから

RTKやVRSは、リアルタイム測位のために常に通信が必要です。しかし、山岳地や離島、地下構造物など、通信が届かない場所では、これらの技術は適用が難しくなります。

一方、スタティック法は後処理方式であり、通信を必要とせず観測データを後から解析することができるため、電波環境に依存しません。この特長により、どんな環境でも確実にデータを取得することが可能です。

観測データの再解析・品質検証ができるから

スタティック法では、衛星信号の生データ(RAWデータ)をRINEX形式で保存することができます。このデータにより、後日解析条件を変更したり、衛星配置や大気の補正モデルを再評価したりといった柔軟な再処理が可能です。また、設計変更や精度検証、さらには地殻変動の長期解析など、研究や設計分野でも有用性が高く評価されています。

スタティック法の観測・解析プロセス

続いて、スタティック法による観測とデータ解析のプロセスについて解説します。精度の高い測位を実現するために重要な事前準備から、実際の観測、そしてその後のデータ解析に至るまでの一連の流れを紹介します。

  • 事前準備と観測計画を行う
  • 同時観測を実施する
  • データ解析と座標算出を行う

事前準備と観測計画を行う

スタティック法によるGNSS観測では、高精度な測位を確保するために、事前準備と観測計画の立案が欠かせません。

観測点の選定

最初に行うべきは、観測点の選定です。衛星信号を安定的に受信できる場所を選ぶことが重要です。周囲に高い建物や樹木、鉄塔などがあると、信号の遮蔽や反射(マルチパス)が発生し、誤差の原因になります。そのため、360度の見通しが確保できる開けた場所が最適です。

また、観測点自体の地盤が安定していることも大切です。地盤が沈下したり振動が発生したりする場所では、微細な動きが観測結果に影響を与えることがあります。

観測衛星の配置(PDOP値)の確認

次に、観測衛星の配置(PDOP値)を確認します。PDOP(Position Dilution of Precision)とは、衛星配置の状態を示す指標で、数値が小さいほど測位精度が高くなります。

GNSS観測では、衛星が均等に分布している時間帯が理想的です。PDOP値が低い時間帯を選ぶことで、誤差を最小限に抑えることが可能です。観測計画ソフトやGNSS受信機の支援ツールを使用すれば、最適な観測時間帯を事前にシミュレーションすることができます。

観測時間の設定

さらに、基準局と移動局の距離(基線長)を考慮して、観測時間を設定することも重要です。

スタティック法では、基線が長くなるほど、大気遅延や電離層遅延の影響が大きくなります。そのため、基線長が短い場合は30分程度の観測で十分な精度が得られますが、数十キロメートル以上の基線を観測する場合は、数時間以上の連続観測が推奨されます。

このように、観測環境の確認、衛星配置の最適化、観測時間の設定を丁寧に行うことで、スタティック法による高精度測位の第一歩が確立されます。

同時観測を実施する

基準局と移動局を複数設置し、同時に観測を行います。観測時間は基線長に応じて異なりますが、短基線の場合は約30分、長基線の場合は数時間にわたることもあります。

観測中は、アンテナの設置が非常に重要で、器械高の測定誤差や整準ミスがわずかでもあると、観測結果に大きな影響を与えることになります。また、環境ノイズやマルチパスを避けるため、金属構造物や樹木などの近くでの観測は避けるべきです。

データ解析と座標算出を行う

観測したデータをRINEX形式などで解析ソフトに入力し、整数アンビギュイティを解決します。解析には、基準点の既知座標や衛星軌道情報、補正データを使用し、正確な位置関係を求めます。

解析結果として得られるのは、各観測点間の正確な位置関係と、誤差指標(残差やPDOP値)です。これらのデータを地理座標系(JGD2011など)に変換し、基準網として登録します。

RTK法及びVRS法との使い分け

続いて、スタティック法とRTK法およびVRS法の違いを解説し、それぞれの技術がどのような用途に最適であるか紹介します。各測位技術の特徴と、現場での効果的な使い分けについて触れます。

リアルタイムと静的観測での使い分け

RTK法やVRS法は、基準局と移動局を通信で接続し、リアルタイムで誤差補正を行う技術です。これらは、施工管理やドローン測量など、「その場で結果を必要とする作業」に非常に適しています。リアルタイムでの測位により、即時に位置情報を得ることができ、効率的な作業が可能です。

一方、スタティック法はリアルタイム性はありませんが、精度と再現性において優れています。誤差要因を後処理で徹底的に排除できるため、国家座標網の構築や高精度基準点の確立など、精度が最優先される場合に最適です。

短時間作業と高精度基準点測量での使い分け

RTK法やVRS法は、短時間で作業を終わらせたい施工現場で威力を発揮します。これらの技術は、施工現場での迅速な測量に適しており、特に即時の結果が求められる場合に便利です。

スタティック法は、「精度最優先」の用途、たとえば恒久基準点の確立や地殻変動観測などに用いられます。精度が最も重要な測量では、スタティック法が選ばれることが多いです。

多くの現場では、スタティック法で基準点を確定し、その後、RTK法で施工点を展開するという併用運用が行われています。

使い分けの実例

実際の測量現場では、スタティック法とRTK法・VRS法を組み合わせて使用することが一般的です。

たとえば、大規模な土木工事やインフラ整備の現場では、まず基準となる「基準点」を高精度で確定する必要があります。このとき、スタティック法を使って精密に測位し、現場全体の基準フレームを設定します。

スタティック法は、複数のGNSS受信機を一定時間固定して観測することにより、ミリメートル〜センチメートル単位の高精度な位置情報を得ることができます。この方法により、現場全体の座標系が正確に定義され、その後の測量や施工管理の信頼性が高まります。

一方、現場内での「中間点」や「作業点」の測位には、RTK法やVRS法が使用されます。これらはリアルタイムで即座に座標を取得できるため、施工管理や出来形測量、ドローン測量など、スピードと効率が求められる作業に非常に有効です。

スタティック法で高精度な基準を設定し、RTKやVRS法を使って現場作業を効率よく進めることで、精度と効率のバランスが取れた測量データが得られます。

スタティック法の現場活用事例

続いて、スタティック法が実際の現場でどのように活用されているのか、具体的な事例を紹介します。スタティック法は、さまざまな測量作業においてその精度と安定性を発揮し、多くの重要なプロジェクトに利用されています。

  • 国土地理院の基準点測量
  • 土木施工での基準点確立
  • 離島・山岳地域での基盤整備

国土地理院の基準点測量

日本全国に約1,300点存在する電子基準点網(GEONET)では、スタティック法を用いた定期的な観測が行われています。この観測により、地殻変動や地震後の地形変化が精密にモニタリングされています。

これらのデータは、RTKやVRSの補正情報源としても活用され、スタティック法による「静的測位」がリアルタイム測位の信頼性を支えています。

土木施工での基準点確立

ダム建設やトンネル掘削などの大規模工事では、精度が求められるため、施工誤差が数センチメートルでも許されません。このような現場では、スタティック法を用いて基準点を確定し、その基準点を基にRTK測量で日々の進捗管理を行います。これにより、高精度で整合性の取れた施工管理が可能となります。

離島・山岳地域での基盤整備

通信インフラが脆弱な地域では、スタティック法が非常に有利です。観測後、解析センターで後処理を行うことで、通信環境に依存せず高精度な測位結果を得ることができます。特に、離島の港湾工事や山岳トンネル掘削など、通信が難しい場所では、このスタティック法が現在でも主流の技術として活用されています。

スタティック法導入のメリット

スタティック法は、高精度で信頼性の高いデータを提供し、柔軟なデータ解析を可能にします。また、法的および技術的要件を確実に満たすことができ、幅広い分野での利用に適しています。ここでは、スタティック法導入における主なメリットを解説します。

  • 精度と信頼性が高い
  • データ解析の自由度が高い
  • 法的、技術的要件の満足度が高い

精度と信頼性が高い

スタティック法の最大のメリットは、その優れた精度です。誤差要因を徹底的に排除することができるため、基準点座標の再現性が非常に高く、長期間にわたる測地データとして信頼性を持って利用できます。この精度は、長期的なデータ解析や基準点測量において特に重要な役割を果たします。

データ解析の自由度が高い

スタティック法では、観測データをすべて記録することができるため、後日異なる解析モデルを用いて再処理することが可能です。また、異なる観測時期や機器から得られたデータを統合し、ネットワーク解析を柔軟に行えるため、さまざまなニーズに対応した精度向上が期待できます。

法的、技術的要件の満足度が高い

国土地理院の測地観測規定では、基準点測量においてスタティック法が正式に採用されています。そのため、官公庁発注の案件やインフラ整備において、スタティック法の採用率が高いことが特徴です。法的および技術的な要件を確実に満たし、安全で信頼性の高い結果を提供します。

スタティック法の課題:観測時間が長い

観測時間の長さがスタティック法の大きな課題として挙げられますが、その対策として、短縮スタティック法やRTK、VRSとの併用運用が有効です。

最大の課題は観測時間の長さです。リアルタイム測位は数分で完了するのに対し、スタティック法では数時間の観測が必要な場合があります。この課題に対処するための一つの方法は、「短縮スタティック法(短時間静的測位)」の活用です。基線長を短くし、衛星数が多い時間帯を選ぶことで、10〜15分の観測でも高精度な結果を維持することが可能です。

また、RTKやVRSと併用することで、効率と精度のバランスを取ることができ、作業を効率化しながら精度を確保することが一般的に行われています。

スタティック法の今後の展望

続いて、スタティック法がAIやクラウド技術、そして新たな測位技術とどのように融合し、進化していくのか解説します。リアルタイム化や自動化が進む現代においても、スタティック法が持つ価値がどのように拡大していくのかを探ります。

  • AI解析による誤差推定の自動化
  • クラウド解析及び共有の進展
  • VRSやPPPとの融合

AI解析による誤差推定の自動化

従来、スタティック法のデータ解析には、高度な専門知識と経験が求められてきました。観測データの解析には、衛星信号の品質や大気遅延の補正、マルチパスの影響など複数の要素を総合的に考慮する必要がありましたが、これらの判断は測量士や解析技術者の経験に依存していました。

しかし、AI(人工知能)を活用した解析支援技術が進化することで、GNSS観測データの品質評価や誤差推定が自動化されつつあります。AIは膨大なデータを学習し、衛星信号の強度や受信環境からリアルタイムでノイズやマルチパスの影響を検出します。これにより、誤差の原因を自動的に特定し、最適な補正パラメータを適用することができ、従来よりも精度の高い解析が可能となります。

また、AIによる自動解析は、従来の解析者依存の体制を変革し、「標準化された高精度解析」を実現します。観測データの取り込みから品質評価、アンビギュイティ解決、座標計算までの一連の流れをAIが自動で管理することで、解析時間が大幅に短縮され、経験が浅い技術者でも安定した結果を得られるようになります。

さらに、AIは過去の観測履歴を学習し、特定の地域や季節、大気条件下での誤差傾向を予測し、最適な観測時間帯や衛星配置を提案することが可能になると期待されています。このように、AIの導入は単なる自動化にとどまらず、観測の戦略設計自体を高度化する技術革新を意味します。

クラウド解析及び共有の進展

次に注目すべきは、クラウド技術を活用したスタティック観測データの解析と共有の進展です。

従来、GNSS観測の後処理はローカルPCで行われており、解析ソフトへのデータ入力や座標算出のために多くの手間がかかっていました。しかし、クラウドベースの解析サービスが登場したことで、これらの手間が大幅に削減されています。

観測データをクラウドにアップロードするだけで、解析が自動的に実行され、その結果をウェブ上で閲覧・共有できるようになりました。これにより、現場作業者は解析の専門知識がなくても、高精度な座標データを即時に入手できるようになっています。

クラウド解析の大きな利点は、複数の現場やユーザー間でのデータ統合が可能になることです。たとえば、同じ地域内で複数の観測データを一元管理し、相互補正を加えることで、地域全体の基準座標系を精密に調整することができます。このような分散型のネットワークを実現することで、国全体の測位精度を維持し、向上させる仕組みを作り上げることができます。

また、クラウド解析により、観測データの品質管理や履歴追跡が容易になり、メタデータ(いつ、どの受信機で、どの衛星を観測したか)を一元的に管理することで、測量結果の透明性と再現性が高まります。これにより、大規模インフラプロジェクトや官公庁の要求に応える「データトレーサビリティ」の確保が可能になります。

VRSやPPPとの融合

スタティック法の発展をさらに加速させる要素の一つが、他のGNSS測位技術とのハイブリッド化です。特に、VRS(仮想基準局方式)やPPP(精密単独測位)との統合は、観測効率と測位精度の向上に寄与します。

VRS法は、リアルタイムで補正データを配信し、高速かつ高精度な測位を実現します。通常、スタティック法はリアルタイム性がなく、解析結果の取得に時間がかかりますが、VRSの補正情報を併用することで、スタティック観測の初期誤差をリアルタイムで補正できます。これにより、観測開始直後から安定したデータ品質を得ることができ、後処理の負担も軽減されます。

一方、PPP(Precise Point Positioning)は、基準局ネットワークから提供される高精度衛星軌道・時計データを活用し、単独の受信機でセンチメートル級の精度を実現する技術です。PPPは通信インフラに依存せず、山岳地帯や離島など通信が不安定な地域でも高精度な測位が可能です。

スタティック法とPPPを組み合わせることで、観測後の解析において絶対座標の一貫性を保ちつつ、グローバル座標系への統合が可能になります。これにより、国際的に統一された座標網を形成し、測量成果の整合性を高め、災害対応や地殻変動監視、海洋観測などさまざまな分野での応用が期待されています。

まとめ

スタティック法は、GNSS測量における最も基本的で高精度な手法として、現在も多くの現場で活用されています。RTK法やVRS法など、リアルタイム測位技術が広まった現在でも、その信頼性と基礎となる精度を支えているのはスタティック法です。

基準点の確立や国家測地系の維持、長距離基線の精密測位において、スタティック法の重要性は決して過去のものではありません。むしろ、技術革新により、精度とスピードを両立できる新しいスタンダードとして進化しています。

AIとクラウド技術の進展が、スタティック法の解析を自動化し標準化する一方で、VRSやPPPとの連携が現場の即応性を高めています。この流れの先には、現場ごとに最適化された高精度なGNSS測位の実現があります。

アジルジオデザインは、スタティック法をはじめとするGNSS観測技術の高度化を支援し、現場ごとの最適な観測・解析ソリューションを提供しています。後処理解析やネットワーク座標管理、ハイブリッドGNSSシステムの導入など、測量・建設・GIS分野に特化した最適化をご提案いたします。GNSS測位の精度と信頼性を追求したい方は、ぜひアジルジオデザインにご相談ください。

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