GNSS測量は、近年の測量技術の主流となりつつあります。その精度や利便性の高さから、土木・建設業界をはじめ、多くの分野で活用が進んでいます。しかし、具体的な仕組みやGPSとの違い、導入時のメリット・デメリットについて正しく理解している人は意外と少ないのが現状です。GNSS測量の基本を押さえておかなければ、適切な技術選定や実務での活用が難しくなるでしょう。

今回は、GNSS測量の仕組みやGPSとの違いを明確にし、導入を検討するうえで重要となるメリットとデメリットを詳しく解説します。そして、実際の活用事例や今後の展望も紹介します。

GNSS測量とは

GNSS測量とは、衛星測位システム(GNSS)を活用して高精度な位置情報を取得する測量手法です。昨今、測量業界ではこの技術が主流となっており、従来の測量手法と比べて効率性や精度の向上が期待できます。その重要性から、「測量士・測量士補試験」においてもGNSS測量に関する問題が頻出し、専門知識が求められる分野となっています

GNSS測位とは

GNSS(Global Navigation Satellite System)は、人工衛星(測位衛星)からの信号を利用して地球上の位置を高精度に測定するシステムの総称です。現在、世界では以下の6種類の測位システムが運用されています。

  • みちびき(日本)
  • GPS(アメリカ)
  • GLONASS(ロシア)
  • Galileo(EU)
  • BeiDou(中国)
  • NavIC(インド)

日本の「みちびき」は、アジア・オセアニア地域をカバーする準天頂衛星システム(QZSS)で、日本のほぼ真上に長時間滞在する設計になっています。2018年11月から4機体制で運用されており、2026年度には7機体制への拡充が計画されています。この7機体制が確立されると、日本上空には常に4機以上のみちびき衛星が滞在し、単独での持続測位が可能になります。

GNSSとGPSの違い

GNSSとGPSの違いは、測位に利用する衛星の数と精度の違いにあります。かつてはアメリカのGPS衛星のみを使用する「GPS測量」が主流でした。しかし、現在は複数の国の測位衛星を活用できる「GNSS測量」が一般的となり、測位精度が大幅に向上しています。

GPSはアメリカの測位システムのみを利用するため、特定の環境では電波が受信しにくく、測位が不安定になることがあります。一方、GNSSは複数の衛星システムからの信号を受信できるため、GPS単独よりも高精度かつ安定した測位が可能です。このため、GNSS測量は都市部や山間部など、GPS測量では精度が低下しやすい環境でも有効に機能します。

GNSS測量の仕組み

GNSS測量は、測位衛星からの電波を受信し、位置情報を取得する仕組みで成り立っています。測位衛星は地球を周回しながら、「軌道情報」と「電波の発信時刻」の2種類のデータを常時発信しています。地上のGNSS受信機がこれらの情報を取得し、電波の到達時間をもとに位置を算出します。

近年では、複数の国の衛星を同時に活用する「マルチGNSS」が一般的となり、測量の精度と信頼性が向上しています。従来のGPS測量に比べ、より広範囲かつ精密な測量が可能となり、インフラ整備や防災、農業、自動運転技術など、多様な分野での活用が進んでいます。

GNSS測量の方法

GNSS測量では、測位衛星からの電波を受信し、その到達時間をもとに地上の位置を算出します。受信機(GNSS測量機)は、測位衛星から発信された電波を受信し、発信時刻と受信時刻の差を測定します。電波は光速で伝わるため、この時間差に光速を掛けることで、受信機と各衛星との距離を求めます。

測量には4つ以上の測位衛星からのデータが必要です。各衛星との距離が分かると、それらの交点を計算することで正確な位置を算出できます。さらに、複数の衛星から受信したデータを補正することで、測量結果の精度を向上させることが可能です。

GNSS測量の手順

GNSS測量の手順は、従来の測量と基本的な流れは同じです。測量準備、観測、データ解析、作図の4つのステップを踏みます。具体的な観測手順は次のとおりです。

  • 既知点にGNSS受信機を設置する(基準点)
  • 測定する観測点にGNSS受信機を設置する
  • 測位衛星からの信号を受信し、観測を実施する
  • 収集した観測データを解析し、位置情報を算出する

なお、電子基準点を既知点として使用する場合は、事前に基準点の稼働状況を確認する必要があります。

GNSS測量の主な種類

GNSS測量の手法には、大きく分けて「単独測位」と「相対測位」の2種類があります。

単独測位は1台の受信機のみで測位するため手軽ですが、精度が低くなりやすいことが難点です。一方、相対測位は複数の受信機を用いることで高精度な測位を可能にします。ここでは、代表的な相対測位の手法を紹介します。

RTK-GNSS測位

RTK(リアルタイムキネマティック)は、高精度なリアルタイム測位を可能にする方式です。基準局として固定されたGNSS受信機と、移動局として測定対象を持ち歩くGNSS受信機の2台を使用します。

基準局が測定した誤差情報を移動局へ送信し、リアルタイムで補正を行うため、数センチ単位の高精度測位が可能です。建設現場や土木測量の現場で広く活用されています。

ネットワーク型RTK-GNSS測位

ネットワーク型RTKは、国土地理院が全国に設置している電子基準点の観測データを活用する測位方式です。従来のRTK測量とは異なり、現場に基準局を設置する必要がなく、1台のGNSS受信機のみで高精度な測位が可能です。さらに、公共利用の周波数帯を用いるため、無線免許や届出が不要というメリットがあります。

スタティック法

スタティック法は、複数の観測点にGNSS受信機を固定し、一定時間継続して衛星からの信号を受信する方式です。長時間のデータ取得によって誤差を極限まで抑えることができ、GNSS測量の中でも特に高精度な測位が可能となります。

ただし、即時に結果を得ることはできず、解析には時間がかかるため、リアルタイム性が求められる場面には不向きです。この手法は、詳細な地形図の作成や地盤変動のモニタリングなど、長期間にわたる正確な位置情報が求められる場面で特に有効です。

GNSS測量のメリット

GNSS測量の最大のメリットは、従来の測量方法と比べて広範囲を短時間かつ高精度で測定できることです。また、世界測地系に基づいた統一データの取得が可能なため、異なる測量結果の比較や活用がしやすくなります。ここでは、GNSS測量の具体的なメリットについて詳しく解説します。

  • 高精度な測位が可能
  • 建物の多い環境でも測定できる
  • 少人数で効率的に測量が可能
  • 天候の影響を受けにくい

高精度な測位が可能

GNSS測量は、複数の測位衛星を活用することで、高精度な位置情報を取得できることが大きな特徴です。特に、RTK-GNSSやネットワーク型RTKを用いることで、数センチレベルの誤差に抑えた測位が可能となります。

さらに、測量データの処理が自動化されており、世界測地系に準拠したデータ取得が容易なため、異なる機関やプロジェクト間でのデータ比較・活用がスムーズに行えます。

建物の多い環境でも測定できる

従来の測量手法では、障害物による視界の制限が計測精度に影響を与えることがありました。しかし、GNSS測量は測位衛星からの電波を受信するため、上空が開けていれば高層ビルが立ち並ぶ都市部や山間部でも測量が可能です。これにより、従来の測量では困難だった場所でも、安定した精度での測定が実現できます。

少人数で効率的に測量が可能

トータルステーション(TS)を用いた測量では、通常2人以上の作業員が必要ですが、GNSS測量は1人でも作業が可能です。

また、機材の設置時間が短縮されるため、限られた人員でも広範囲の測量を迅速に実施できます。これにより、作業時間の削減と人件費の最適化が図れる点も大きなメリットです。

天候の影響を受けにくい

従来の測量では、天候の変化により測定精度が低下することや、悪天候時には観測自体が困難になるケースがありました。しかし、GNSS測量は降雨や曇天などの気象条件にほとんど左右されず、24時間体制での測定が可能です。これにより、スケジュールが厳しいプロジェクトでも、計測計画を柔軟に調整できるという利点があります。

GNSS測量のデメリット

GNSS測量には多くのメリットがありますが、適用環境やコスト面などの課題もあります。特に、測位衛星からの電波を受信できない場所では測定が難しい点は大きな制約となります。

ただし、デメリットを理解し適切な対策を講じることで、活用の幅を広げることが可能です。ここでは、GNSS測量の主なデメリットについて解説します。

  • 測定誤差が生じる
  • 電波を受信できない場所では測定が困難

測定誤差が生じる

GNSS測量は高精度な測位が可能ですが、完全に誤差がゼロになるわけではありません。通常、数センチ程度の誤差が発生することがあり、特にリアルタイムでの測位では環境による影響を受ける場合があります。

そのため、ドローンや自動運転車など、誤差が重大な影響を及ぼす分野での活用には慎重な検討が必要です。

電波を受信できない場所では測定が困難

GNSS測量は衛星からの電波を受信することで位置を特定するため、電波の受信が不安定な環境では測定が困難になります。

たとえば、高層ビル群の間や深い森林、トンネルの中など、上空が開けていない場所では信号の受信が制限されます。また、電波が建物や地形によって反射する環境や、電波塔・高圧線付近など電波干渉が発生しやすい場所では、測位精度が低下する可能性があります。

導入コストが高い

GNSS測量の導入には、機器やソフトウェアの購入費用がかかるため、初期投資の高さが課題となります。

GNSS測量機器は高度な技術を搭載しているため、高性能なものでは数百万円から数千万円に及ぶこともあります。加えて、測位精度を向上させるための補正サービス利用料、ソフトウェアの更新費用、機器のメンテナンス費用など、運用コストも考慮する必要があります。

そのため、導入前にコストと効果を慎重に検討することが重要です。

GNSS測量の活用事例

GNSS測量は、カーナビやスマートフォンの位置情報など、私たちの日常生活の中で知らず知らずのうちに活用されている技術です。さらに、測量分野にとどまらず、自動運転、物流、農業、災害対策、インフラの点検・保守など、さまざまな分野で幅広く利用されています。ここでは、GNSS測量の具体的な活用事例を紹介します。

土木・建築分野

建設業界では、生産性向上や作業効率の改善を目的に、情報通信技術(ICT)を活用した建設機械(ICT建機)が導入され、注目を集めています。従来、建設機械の操縦には高度な技術が求められていましたが、GNSSとICT建機を組み合わせることで、自動制御が可能となりました。

これにより、作業の省力化が進み、施工時間の短縮や安全性の向上が実現されています。現場の負担を大幅に軽減し、労働環境の改善にも貢献することから、建設業界における「働き方改革」の推進にも役立つ技術として期待されています。

自動運転システム

航空機や自動車、バスなどの自動運転技術にもGNSSが活用されています。

日本では、自動運転の技術レベルを「レベル1」から「レベル5」までの5段階に分類し、レベル3以上では運転の主体が人間からシステムへと移行します。2020年には、茨城県境町で自治体初の自動運転バスが導入され、定時・定路線での運行が開始されました。現在も、各自治体での導入が進んでいます。

さらに、自動運転トラックやドローンによる自動配送の実証実験が行われており、物流業界における業務効率の向上が期待されています。また、自動運転技術を活用した草刈り機や除雪機の導入により、地域の課題解決にも貢献することが見込まれています。

スマート農業

農業分野においても、GNSSを活用した「スマート農業」が急速に普及しています。

トラクターなどの農業機械に自動運転技術を搭載することで、作業の精度が向上し、省力化が実現されています。さらに、ドローンによる農薬散布や、ロボットを活用した耕作・収穫の自動化も進められています。

自動運転技術には、運転の一部を補助するもの、オペレーターが搭乗し自動操舵を行うもの、完全無人で作業を行うものなど、さまざまなレベルがあります。これらの技術は、農業従事者の負担を軽減するとともに、労働力不足の解消や生産性向上にも貢献すると期待されています。

災害対策・インフラ保守

GNSS測量の高精度な位置情報は、災害対策やインフラの維持管理にも活用されています。

たとえば、斜面にGNSSセンサーを設置し、地盤沈下や土砂移動をリアルタイムで監視することで、土砂災害のリスクを予測することが可能です。また、道路、橋、トンネル、河川施設などのインフラや構造物の変位を連続的に観測し、異常を検知することで、維持管理や点検作業の効率化が図られています。

さらに、GNSSを活用することで、津波警報や避難勧告の発信精度が向上し、災害発生時の被害を最小限に抑えることができます。加えて、被災地での救助活動では、正確な位置情報を提供することで、迅速かつ的確な支援を実現することが可能です。

GNSS測量の今後の展望

GNSS測量は、現代の測量技術において不可欠な存在となっています。今後の技術革新により、さらなる精度向上が期待され、より正確で信頼性の高い測量が可能になると見込まれます。高精度な測量データの活用は、社会インフラの整備や都市計画、防災対策の分野においても大きな役割を果たすことになるでしょう。

また、人工知能(AI)やドローンとの連携が進むことで、測量の効率性が劇的に向上し、自動化や省人化の促進が期待されます。特に、建設・土木分野におけるICT施工や、自動運転技術の発展と連携することで、測量技術の適用範囲がさらに拡大することが予想されます。

一方、GNSS技術の進化には国際的な協力が不可欠です。国土交通省国土地理院は、1994年の設立当初から国際GNSS事業(IGS)に参画し、国際的な測位技術の発展を支援してきました。さらに、2023年からは国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同でIGSの解析センターに参加し、日本の位置基準の維持・管理をより自律的かつ安定的に行える体制を確立しています。

今後、測地・測位分野における研究がさらに進展し、より高精度な測位技術が開発されることで、GNSS測量は一層の発展を遂げるでしょう。

まとめ

GNSS測量は、衛星測位システムを活用した測量技術であり、従来の測量手法と比較して広範囲を短時間で高精度に測定できる点が大きな特徴です。GPS測量と異なり、複数の測位衛星の信号を利用することで、精度と安定性が向上しており、土木・建設分野をはじめ、さまざまな分野での導入が進んでいます。

その一方で、電波の受信環境に依存するという特性上、測位衛星の信号が届きにくい場所では測量が困難になるという課題もあります。また、高精度な測量を実現するためには、専用の機器やソフトウェアの導入が必要となり、初期投資や維持管理コストがかかる点も考慮しなければなりません。

しかし、技術の進歩により、補正技術の精度が向上し、ネットワーク型RTKの活用によって、より柔軟で高精度な測量が可能になってきています。

今後、GNSS測量はAIやドローンと組み合わせることで、さらなる効率化や自動化が進み、建設現場のICT施工や自動運転技術、スマート農業、災害対策など、さまざまな分野での活用が拡大することが予想されます。

技術の進化とともに、GNSS測量は今後ますます重要な役割を果たし、測量・位置情報技術の分野において不可欠な存在となるでしょう。

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