森林内でのGNSS(Global Navigation Satellite System)測量精度は、環境要因によって大きく影響を受けます。特に、枝葉や地形が電波の受信に干渉し、精度が低下することがよくあります。
実際に、林業や調査の現場では、「数メートル単位でズレた」「まったく位置が取れなかった」といった報告が後を絶ちません。このような精度の低下は、現場での作業効率を大きく損なう原因となっています。
今回は、森林内でGNSS精度が低下する原因を明確にし、そのメカニズムを詳しく解説した上で、実際の測量現場で役立つ3つの対策を紹介します。
この記事を通じて、GNSSが使いづらい環境でも測量精度を維持するための実践的な知識を習得できます。森林測量でのミスや手戻りを減らしたい方は、ぜひ最後までお読みください。
森林測量で使われるGNSSの種類と精度の違い
森林測量で使用されるGNSS(Global Navigation Satellite System)には、主に次の3種類があります。
- DGNSS
- RTK-GNSS
- CLAS
それぞれの技術は測位の精度や通信環境が異なり、測量現場の条件に応じて最適なものを選択することが重要です。
| 測位技術 | 特徴 | 精度 | 通信環境 |
| DGNSS
(Differential GNSS) |
基準局で誤差を補正 | 約10m | 測位方法による |
| RTK-GNSS
(Real Time Kinematic) |
リアルタイムで補正 | 数cm〜最大4m | 高速通信が必要 |
| CLAS
(Centimeter Level Augmentation Service) |
みちびき衛星からの補正信号を活用 | 平均:約1.5〜2m最大:7m | 衛星通信 |
それぞれの測位技術は、精度や必要な通信環境が異なるため、使用する場所や目的に応じて選択が求められます。
DGNSS:基準局を使った誤差補正技術
DGNSS(Differential GNSS)は、基準点と呼ばれる既知の位置情報を元に、衛星から受信した信号の誤差を補正する技術です。この方式は、通信インフラを必要とせず、ローカル環境で利用可能なため、特に安価で導入しやすい点が魅力です。
精度は約2〜3mとされ、広範囲での森林境界の把握には適していますが、精密な境界測量には向いていません。森林内では、電波干渉が発生しやすいため、誤差が大きくなる可能性があります。
RTK-GNSS:リアルタイム補正による高精度測位技術
RTK-GNSS(Real Time Kinematic)は、移動局と基準局がリアルタイムで位置補正を行う技術です。この方式は、障害物の少ない場所では数センチメートル単位の高精度な測位を実現できます。
ただし、高速通信環境が必須であり、森林内では電波状況が悪化することが多く、誤差は数10cmから最大4m程度に達することがあります。特に、枝葉や地形の影響を受ける場面では精度が低下しやすいため、注意が必要です。
CLAS:日本独自の「みちびき」衛星を利用した補正技術
CLAS(Centimeter Level Augmentation Service)は、独自の「みちびき」衛星から提供される補正信号を使用する方式です。この技術は、衛星通信を利用することで、障害物の少ない場所では数センチメートル単位の高精度な測位が可能です。
森林内では、誤差が1.5〜2m程度になることがあり、精度を向上させるためには、5分以上の連続測位が推奨されます。この方法は、GNSSの補正精度を高める手段として有効です。
森林環境がGNSS測量の精度に与える要因
GNSS(Global Navigation Satellite System)は、地球を周回する複数の衛星から発信される電波を受信し、その情報を元に現在地を割り出すシステムです。しかし、森林環境では、以下の要因が精度に大きな影響を与えます。
| 要因 | 内容 |
| 開空率
(森林の密度) |
木々の密集により、衛星からの電波が遮られ、誤った情報が届く |
| 地形
(谷地形・急斜面) |
谷や急斜面が衛星信号を遮り、正確な測位が難しくなる |
開空率(森林の密度)
開空率とは、地表から見上げたときに、どれだけ空が見えるかを示す指標です。森林が密集し、枝葉が多いほど、空が見えにくくなり、開空率が低くなります。
GNSS測量では、できる限り多くの衛星と通信を取れる環境が必要です。開空率が低い場所では衛星との通信が難しくなり、その結果、測位精度が大幅に低下します。
また、枝葉や幹で電波が反射することで、「マルチパス誤差」が発生し、誤った位置情報を導き出すことがあります。この誤差は、位置を特定する際の大きな障害となります。
地形(谷地形・急斜面)
森林内の谷地形や急斜面では、周囲の山や崖が衛星を遮り、上空の衛星信号が受信できなくなります。そのため、通信できる衛星の数が減少し、測位の安定性が低下します。
さらに、崖や地面の反射により、誤った信号が受信され、実際の位置と異なる結果が導かれることもあります。この「マルチパス誤差」は、特に標高情報に影響を与え、3次元の地形測量では大きな誤差を引き起こす原因となります。
森林におけるGNSS測量精度の限界
森林内でのGNSS測量は、技術的およびインフラ面において制約があります。特に、山間部や密林地帯では、電波の届きにくさや通信環境の不安定さが影響し、精度の確保が困難な場合があります。ここでは、森林環境でGNSS技術が直面する主要な3つの課題を紹介します。
- 衛星からの電波が届かない場合、測位は不可能
- 補正情報の取得には通信インフラの限界がある
- 3D地形を正確に把握できない
衛星からの電波が届かない場合、測位は不可能
GNSSは複数の衛星から発信される電波を受信し、その情報を基に位置を特定します。したがって、電波を受信できない場合、測位そのものができません。
森林環境では、枝葉や樹木の幹により、衛星信号が遮られることが多く、電波が届きにくくなります。さらに、谷地形や崖の影響で衛星が視界から外れると、必要な数の衛星と通信ができず、測位が不可能になることもあります。
通信インフラが整わないと補正情報の取得が困難
RTK-GNSSやCLASなどの高精度測位技術では、衛星信号だけでなく、補正情報をリアルタイムで受信する必要があります。しかし、山間部では通信環境が整っていないことが多く、補正情報を適切に受け取れないケースが発生します。
そのため、いくら高精度な機器を使用しても、通信インフラの未整備によって精度が低下し、期待通りの測位結果が得られない場合があります。
GNSSだけでは3D地形の正確な把握は難しい
森林のように凹凸が多い地形では、立体的な情報を測定する必要がありますが、GNSSは「点」位置の測定に特化しているため、立体的な地形の情報を十分に把握することができません。
GNSS単体では、斜面の角度や樹木の傾きなどの詳細な立体構造を測ることが難しく、3D精度を求められる場面では、その技術を活用するのが難しい場合があります。
GNSS以外で森林測量の精度を向上させる方法
GNSSだけでは限界がある森林測量ですが、他の技術と組み合わせることで精度を補完したり、異なる視点から情報を取得したりすることが可能です。ここでは、代表的な3つの補完技術について解説します。
- ドローンを使って上空から地形を測定する
- 地上レーザーLiDAR(ライダー)を用いて立木や地表の形状を記録する
- スマート測量ポール(Drogger)を活用する
ドローンを活用して上空から地形を測定する
ドローンを使用し、森林の上空から地形や樹木の配置を把握する方法です。
ドローンは、GNSS信号が届かない場所でも、空中から広範囲の情報を取得できます。撮影された画像は、写真測量やDSM(デジタル標高モデル)の作成に活用でき、森林内で効率的な測量が可能となります。
これにより、GNSS技術ではカバーしきれない範囲の情報も収集できます。
LiDAR(ライダー)を使って立木や地表の形状を記録する
LiDAR(Light Detection and Ranging)は、レーザー光を地面や対象物に照射し、反射して戻ってきた信号を解析することで、物体の位置や高さを測定します。これにより、地面の起伏や樹木の高さ・密度など、三次元的な形状を高精度で記録できます。
特に光や電波が届きにくい密林のような場所でも、LiDARは細かな構造を正確に把握できます。近年では、軽量な三脚型や手持ち型の装置も登場し、作業の負担が軽減されています。
スマート測量ポール(Drogger)を活用する
Droggerは、スマート測量ポールと呼ばれる小型のGNSS受信機とスマートフォンを連携させたツールです。CLAS(Centimeter Level Augmentation Service)やRTK(Real Time Kinematic)といったGNSS技術に対応しており、コンパクトながら高精度な測位を実現します。
このポールは、一人でも持ち運び可能で、ボタン操作のみで測位と記録ができるため、作業効率が大幅に向上します。特に、過酷な環境での使用に適した次世代の測量機器です。
まとめ
森林でのGNSS測量は、DGNSS、RTK、CLASといった異なる測位方式があり、それぞれ精度や通信条件に違いがあります。開けた場所では高精度な測位が可能ですが、森林内では枝葉や地形の影響により誤差が大きくなるため、精度確保が難しくなります。
森林環境で精度が低下する主な原因は次のとおりです。
- 上空が遮られ、衛星からの電波を受信しにくい(開空率が低い)
- 電波が反射し、誤った位置が計算される(マルチパス誤差)
- 通信インフラが不十分で補正情報が取得できない
GNSS単体では精度を確保することが難しい場合でも、ドローン、LiDAR、スマート測量ポール(Drogger)など、他の技術を組み合わせることで、森林内でも正確な測量が実現可能です。正確な森林管理や調査を行うためには、技術選定とその運用方法に工夫を凝らすことが不可欠です。




