ドローン活用を次の段階へ引き上げる鍵は、GPS依存を克服できるSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術です。自己位置推定と環境マッピングを同時に行うこの仕組みにより、屋内・地下・高架下など従来困難だった環境でも、自律飛行や高精度な空間把握が可能になります。
近年、ドローンは建設・土木・測量・インフラ点検・警備といった幅広い業界で欠かせない存在となりました。その背景には、空撮だけでなく「計測」「監視」「点検」といった業務需要の拡大があります。こうした中でSLAM技術が注目され、従来技術の限界を超える新しい活用の可能性を開いています。
今回は、SLAM技術の仕組みやGPS・マーカー方式との違い、活用事例や導入による効果、さらに機体やソフトウェア選定のポイントまでを体系的に解説します。ドローン導入を検討する企業にとって、実務に直結する知見を得られる内容となっています。
SLAM技術とは
SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)は、自己位置推定と環境マッピングを同時に行う技術であり、ドローン活用を大きく進化させる基盤となっています。まずは、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の基本概念と背景について解説します。
SLAMの仕組み
SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)は、自己位置推定と環境マッピングを同時に行う技術です。ロボティクス分野で長年研究され、ドローン、自動運転車、サービスロボットなど幅広く応用されています。
カメラやLiDARセンサーから取得した情報をアルゴリズムがリアルタイムに解析し、飛行中のドローンは「自分がどこにいるのか」「周囲にどのような構造物があるのか」を把握できます。代表的な方式には、次の3つがあります。
- ①Visual SLAM:カメラ映像から特徴点を抽出し、環境を3Dで認識する方式。
- ②LiDAR SLAM:レーザースキャナーによる精密な距離情報を利用し、3Dマップを生成する方式。
- ③Visual-Inertial SLAM:カメラとIMU(慣性計測装置)を組み合わせ、頑健な位置推定を実現する方式。
これらの方式により、GPSが届かない環境でも安定した飛行や高精度のマッピングが可能になります。
GPSやマーカー方式との比較
従来のドローンはGPSやマーカーに依存しており、屋内・地下・森林・高架下など衛星信号が遮断される環境では測位精度が低下する課題がありました。また、マーカー方式は人工的な設置が必要で、準備コストや作業時間が増大してしまいます。
これに対し、SLAMは環境そのものを活用して自己位置を推定するため、追加のインフラ整備が不要であり、低コストかつ広範囲の環境に適応できるという大きな強みを持ちます。
ドローンとSLAM技術の主な活用領域
SLAMを搭載したドローンは、従来の制約を超えて多様な産業分野で活躍の幅を広げており、特に測量や点検といった領域で導入が加速しています。ここでは、ドローンとSLAM技術の主な活用領域について解説します。
高精度測量・3Dマッピング
従来の測量はトータルステーションやGNSS測量機器に依存し、多くの人員と時間を必要とすることが課題でした。
これに対し、SLAMドローンは自己位置推定を活かして、自動で3Dマッピングを行い、複雑な地形や構造物を短時間でモデル化できます。さらに、現場で成果物を即座に確認できるリアルタイム処理や、従来測量と比較して誤差数センチレベルの精度を短時間で実現できる点も強みです。
これらの特長から、建設現場や都市計画、森林調査といった分野で急速に活用が進んでいます。
構造物や設備の点検、メンテナンス
SLAMドローンはGPSが届かない環境でも高精度に飛行できるため、橋梁・トンネル・プラント設備などの点検に有効です。橋梁点検では高所足場を設置せずに近接撮影が可能となり、トンネルでは狭塞空間でも自己位置を推定しながら安全に進入できます。
さらに、工場設備では、人が立ち入りにくい配管エリアや屋内設備の効率的な点検を実現できます。これにより作業効率が大幅に向上するだけでなく、危険作業を減らすことで人的リスクを大きく低減できる点も導入効果の一つです。
SLAMドローン導入による業務改善効果
SLAMドローンの導入は、作業効率の大幅な向上だけでなく、精度確保や安全性強化といった多面的な効果をもたらします。ここでは、SLAMドローン導入による作業効率化、精度向上、安全性向上について解説します。
導入によるコスト削減とROIの可視化
SLAMドローンを導入する最大の効果は、人員削減と作業時間短縮によるコスト削減です。これにより作業人件費が抑えられ、プロジェクト全体の工期も短縮されます。さらに大きな価値は、ROI(投資対効果)を明確に数値化できる点にあります。
たとえば、従来10人規模で数日かかっていた測量や点検は、SLAMドローンの導入によって数人・半日で完了することも可能です。この場合、人件費・宿泊費・機材レンタル費などを大幅に削減でき、投資額を上回る成果が得られます。
実際に、橋梁点検では年間約1,000万円のコストが導入後には約600万円に圧縮できた事例もあり、建設測量の現場では従来1カ月を要した作業が1週間で完了し、仮設費や人件費を数百万円単位で削減できるケースもあります。
このように効果を「費用削減額」や「工期短縮日数」として提示できるため、経営層や発注者への説明も容易になります。ROIを明確に示せることこそ、SLAMドローン導入の大きな強みです。
安全性の向上とリスク低減
従来は人が危険な場所に立ち入って点検していたため、労働災害のリスクが常に存在しました。しかし、SLAMドローンを用いることで、高所作業は空撮で代替でき、狭隘空間では自己位置を把握しながら安全に飛行できます。さらに、災害現場でも崩落や余震リスクが残る環境に直接人が入ることなく、迅速かつ精度の高い情報収集が可能になります。
結果として、作業者の安全を守りつつ効率的に業務を遂行できるため、労働災害リスクの低減に直結し、企業にとっては安全対策の面からも極めて導入価値が高いといえます。
SLAM技術ドローンの最新事例
SLAM技術を搭載したドローンは、建設から災害対応まで幅広い現場で従来の手法を刷新し、効率性と安全性を両立する成果を上げています。
建設・土木分野の成功事例
建設や土木の現場では、SLAMドローンの導入によって「進捗管理」と「品質検査」を一体化できる新しい運用が広がっています。
従来は2D図面や写真による確認が中心で、現場状況を正確に把握するには限界がありました。しかし、SLAMドローンで現場を飛行させると、短時間で高精度な3Dモデルを自動生成できます。この3Dモデルを用いれば、施工精度や寸法誤差をリアルタイムで確認できるため、目視確認や後日の測量に頼る必要が大幅に減ります。
さらに、盛土やコンクリート打設の体積を即座に算出し、予定数量との差を数値化できるため、工期の遅延や追加費用の発生を防ぐことが可能です。加えて、発注者や監理者への説明も3Dモデルを共有することで理解が深まり、意思決定のスピードが向上します。
結果として、工期短縮・コスト削減・施工精度向上・発注者との信頼関係強化を同時に実現しているのが、SLAMドローン導入の大きな成果です。
災害・インフラ点検分野の事例
災害対応やインフラ点検の領域でも、SLAMドローンは調査の常識を変えています。
たとえば、地震後の建物内部調査では、人が入れば二次被害の危険がある現場にドローンを自律飛行させ、内部を3Dマッピングすることで、安全に詳細な被害状況を把握できます従来は専門隊が危険を承知で侵入していましたが、遠隔から高精度な判断が可能となり、安全性は飛躍的に向上しました。
また、台風や豪雨後の堤防・河川敷の点検でも有効です。増水や土砂崩れの危険がある場所に人が立ち入る必要はなく、空撮とSLAMで得られた3Dデータを組み合わせることで、堤防の変形や陥没を早期に発見できます。これにより、防災担当者は効率的に復旧計画を立てられ、被害拡大を防止できます。
さらに、老朽化インフラの定期点検にも活用が進んでいます。橋梁の裏側やトンネル壁面といった従来は足場を組んで目視点検していた場所でも、ドローンが飛行して3Dマップを生成することで、劣化やひび割れの進行を精密に記録できます。これにより時系列での比較が可能となり、デジタルアーカイブとしての価値も高まります。
このように「人が危険にさらされず、安全かつ効率的に高精度な現場把握ができる」というSLAMドローンの特長は、多くの現場で強く求められているのです。
SLAMドローン導入のポイントと選定基準
SLAMドローンを効果的に活用するには、機体性能・運用環境・予算を踏まえた適切な選定が欠かせません。ここでは導入時に重視すべき基準を整理します。
機体選定のポイント
機体を選ぶ際に特に注目すべきは「耐環境性能」「ペイロード」「飛行時間」の3点です。耐環境性能・ペイロード・飛行時間のバランスを見極め、現場環境や業務要件に最適化することが機体選定の要となります。
耐環境性能
まず耐環境性能は、現場条件に直結します。屋外の建設現場なら強風や雨、工場やトンネルなら粉塵や湿度、さらには極端な温度差など、環境要因にどこまで耐えられるかを確認することが重要です。
IP規格による防塵・防滴性能や動作可能温度範囲、風速耐性などは必ずチェックすべき指標となります。
ペイロード
次にペイロードは、搭載するセンサーやカメラの重量に関わります。SLAM活用にはLiDARや高解像度カメラが不可欠ですが、機体ごとに積載可能重量に制約があります。
小型機では軽量センサーに限られますが、大型機であれば2kg以上のLiDARも搭載可能です。用途に応じて必要なペイロードを満たす機体を選ぶことが欠かせません。
飛行時間
最後に飛行時間は、調査効率を左右します。一般的に20〜40分程度が目安ですが、重量物を搭載すれば短縮されるのが実情です。広範囲の測量には長時間飛行できる機体が有利ですが、狭い範囲の精密測定なら短時間でも十分な場合があります。加えてバッテリー交換の容易さや充電効率も、現場運用コストに大きく影響します。
SLAMソフトウェアとデータ処理の選定のポイント
機体の性能だけでは十分ではなく、SLAMによるデータ処理の仕組みをどう選ぶかも成果に直結します。
リアルタイム処理が可能なソフトウェアであれば、飛行中に即座に3Dマップを生成でき、災害現場や警備など即時判断が必要な場面で効果を発揮します。ただし、速報性が高い反面、処理結果が粗くなることもあるため、精度とスピードのバランスを見極める必要があります。
一方、後処理(オフライン処理)は飛行後にPCやクラウドで詳細解析を行い、高精度な3Dモデルを構築できます。測量や建設など数値精度を重視する業務に適しており、時間はかかるものの成果物の品質は大幅に向上します。
さらに、クラウド連携は導入効果を高める要素です。データをクラウドで共有することで、専門技術者を現場に常駐させずとも遠隔から解析や検証が可能になります。AI解析との組み合わせにより、構造物の劣化や変形を自動検出する高度な活用も期待できます。ただし、クラウド利用ではセキュリティ・通信速度・ライセンス費用の検討も欠かせません。
つまり、現場で即時確認を重視するのか、精度を最優先するのか、あるいは遠隔拠点との共有を重視するのかといった要件に応じて、リアルタイム処理・後処理・クラウド連携を選び分けることが、SLAMドローン導入効果を最大化する鍵となります。
まとめ
SLAM技術は、ドローンの活用範囲を飛躍的に広げる革新的な基盤です。GPS依存を脱却することで、屋内・地下・高架下といったこれまで困難だった環境でも安定した活用が可能となり、新たな業務領域を切り開きます。
さらに、測量・点検・災害対応といった分野では、従来の方法では両立が難しかった「効率化」「精度向上」「安全性確保」を同時に実現できる点が大きな強みです。加えて、導入によって得られる効果は投資額を明確に上回り、ROIを可視化できるため、企業にとって費用対効果の高い投資となります。
当社アジルジオデザインでは、測量・土木・ロボティクス・GIS分野における計測技術導入を支援し、ビジュアルSLAMをはじめとする最新技術にも対応しています。ハードウェアとソフトウェアの両面から総合的な提案が可能なシステムインテグレーターとして、現場ごとの課題に最適化したソリューションを提供いたします。
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