ビジュアルスラムは、カメラ映像を使って自己位置と周囲の地図を同時に生成する技術です。小型デバイスや屋内環境での利用が進んでおり、GPSが使えない場所でも自律移動が可能になる手段として注目されています。

一方で、使用環境によっては精度にばらつきが生じるため、用途に応じた技術選定が求められます。

今回は、ビジュアルスラムの仕組みや種類、主な活用事例について網羅的に解説します。ビジュアルスラムを初めて聞いた方も、比較・検討中の方も、理解を深める手がかりとしてご活用ください。

ビジュアルスラムとは

ビジュアルスラム(Visual SLAM)とは、カメラ映像をもとに自身の位置を推定しながら、周囲の地図をリアルタイムで作成する技術です。「SLAM」は「Simultaneous Localization and Mapping」の略で、日本語では「同時自己位置推定と地図作成」と訳されます。

ビジュアルスラムは、カメラを使って周辺環境の特徴を把握・解析することが特徴です。カメラで捉えた画像内に存在する特徴点を連続して検出・追跡し、自己位置や地形情報を割り出せます。

主なSLAMの種類(ビジュアル・LiDAR・Depth)

SLAMには複数の方式があり、センサーの種類や解析方法によって分類されます。代表的なSLAMの種類としては、次のものが挙げられます。

SLAMの種類 使用センサー 特徴
Visual SLAM

(ビジュアルスラム)

カメラ

・軽量

・省コスト

・小型デバイスに適応

LiDAR SLAM

(ライダー・スラム)

レーザー

・高精度

・遠距離対応

・高コスト

Depth SLAM

(デプス・スラム)

深度カメラ

・奥行きデータを活用

・高精度だが処理負荷あり

SLAMは、地図のない未知の空間でも自律的に移動・探索するロボットや機器にとって不可欠な基盤技術となっています。

補助的・派生的な技術(アルゴリズム)

SLAMの精度を高めたり、特定の環境下での動作を安定させたりするために、補助的な技術が利用されることもあります。代表的な手法には次のものが挙げられます。

技術名 処理方式 特徴
Landmark-based SLAM

(ランドマークスラム)

地図上の既知ランドマークと照合する

・目印となる構造物と現在の観測データを照らし合わせて位置を補正

・倉庫や建物など、ランドマークのある空間で安定した測位が可能。

Visual Relocalizer

(ビジュアル・リローカライザー)

過去の画像データと再照合する ・過去のカメラ映像との照合で自己位置を特定できる

・暗所やブレによるトラブルに強い

補助技術は、ビジュアルスラムやLiDAR SLAMと組み合わせて活用されることが一般的です。

ビジュアルスラムの種類・方式の分類

ビジュアルスラムには、使用するカメラの種類に選択肢があります。

方式 特徴 用途例
単眼カメラ ・一つのカメラで処理

・コストが低い

・距離誤差が生じやすい

・安価なドローン

・学習用

ステレオカメラ ・2つのカメラを使用

・奥行きを取得

・精度が高い

・ロボット

・車載用途

RGB-Dカメラ ・色(RGB)と深度(D)を取得

・精度が高い

・処理が重い

・室内マッピング

・3Dスキャン

ビジュアルスラムで使用されるカメラは、用途や環境、求められる精度によって選択肢が異なります。

たとえば、単眼カメラはコスト面で優れている反面、スケール(距離)推定に課題があります。学習用途や小規模な開発に向いています。また、ステレオカメラやRGB-Dカメラは、奥行き情報を直接取得できます。精度の高い位置推定や3Dマッピングが求められる場面に適しています。

ハードウェアの性能や運用コストを踏まえて、最適な方式を選ぶことが重要です。

ビジュアルスラムの導入のポイント

導入にあたっては、目的と使用環境に応じたカメラ方式の選定が重要です。

  • 開発コストを抑えたい場合:単眼カメラによるVisual SLAM
  • 奥行きや距離の精度を重視したい場合:ステレオカメラやRGB-Dカメラ
  • 照明条件が不安定な環境で使いたい場合:赤外線対応のRGB-Dカメラ

近年では、AIによる画像補正やIMU(慣性センサー)との統合も進んでおり、単眼カメラでも一定の精度を実現する技術が登場しています。ビジュアルスラムは進化を続けており、今後はセンサー構成を最小限に抑えつつも、高精度なマッピングが可能になると期待されています。

ビジュアルスラムとLiDAR SLAMの違い

ビジュアルスラムとLiDAR SLAMは、使用するセンサーや得意とする環境が異なります。

LiDAR SLAMはレーザーを使って、周囲との距離を高精度に測定しながらマッピングを行います。一方、ビジュアルスラムはカメラ映像に含まれる特徴点を検出・追跡することで、自己位置と地図を推定する方式です。

ビジュアルスラムとLiDAR SLAMの違いを比較すると、下の表のようになります。

比較項目 ビジュアルスラム LiDAR SLAM
センサー カメラ映像 レーザー距離計
特徴点の取得 画像内のエッジ・模様など 物体との距離情報
精度 数十cm〜1m程度の誤差 数cm単位
屋内での使用 得意(GPS不要) 対応できるがオーバースペック
屋外での使用 苦手 得意
コスト 小さい 大きい
サイズ・重量 コンパクト・軽量 大型・重量がある
主な用途 ・小型ロボット

・ドローン

・AR/VR

・自動運転

・建設・土木測量

・インフラ管理

センサーの仕組みと取得データの違い

ビジュアルスラムとLiDAR SLAMの根本的な違いは、センサーの仕組みと得られるデータの性質です。

ビジュアルスラムはカメラを用いて、画像の中からエッジやコーナーといった特徴点を抽出し、時間軸の変化量から移動量を推定します。

一方、LiDAR SLAMはレーザー光を照射し、跳ね返ってくるまでの時間(ToF:Time of Flight)をもとに、物体との距離を計算します。

LiDAR SLAMは対象物の形状や距離に関して、カメラよりも高い精度を持ちますが、色情報は取得できません。ビジュアルスラムは、色や質感など豊富な情報を扱えるメリットがあります。

環境条件による得意・不得意の違い

両技術のもう一つの違いは、動作環境による安定性です。

ビジュアルスラムは「視覚情報」に依存するため、暗い場所や白い壁など特徴点の少ない環境では精度が低下しやすくなります。強い逆光やブレの影響も受けやすく、カメラの画質や露出に影響されます。

LiDAR SLAMは光を発して対象との距離を直接計測するため、暗所でも安定して動作します。霧や雨といった気象条件にも一定対応できます。

用途に応じて、どちらのセンサーがその環境に適しているかを事前に把握しておくことが重要です。

適材適所の選択が重要

導入環境や目的に応じて、最適なSLAM技術を選ぶことが成果を左右します。

  • 精度を最重視したい場合:LiDAR SLAM
  • コストや軽量性、汎用性を重視したい場合:ビジュアルスラム

高精度な測位が求められる場合は、広範囲かつ屋外環境に強いLiDAR SLAMが有効です。一方で、コストやサイズの制約がある場合には、軽量かつ低価格なビジュアルスラムが適しています。小型ロボットやドローンへの組み込みにも対応しやすいことが特長です。

ビジュアルスラムの特徴とメリット

ビジュアルスラムは、汎用カメラを用いた軽量・低コストな構成が可能で、衛星通信が不要な点が最大の特長です。省電力かつ小型であるため、GPSが届かない屋内やトンネル、小型ドローンやロボットなどの用途で導入が進んでいます。

ここでは、ビジュアルスラムが持つ代表的なメリットを3つの視点から解説します。

  • 安価・小型・省電力で導入しやすい
  • リアルタイムで位置確認と地図作成ができる
  • 屋内や狭い場所でも使いやすい

安価・小型・省電力で導入しやすい

専用の高価なセンサーを必要とせず、一般的なカメラのみで構成できる点がビジュアルスラムの大きな利点です。

  • カメラが安価:初期導入コストを抑えられる
  • 小型・軽量:狭いスペースにも組み込みやすい
  • 低消費電力:バッテリー駆動でも長時間の動作が可能

シンプルな構成により、コストパフォーマンスに優れた測位・マッピングシステムを構築できます。

リアルタイムで位置確認と地図作成ができる

取得したカメラ映像をリアルタイムで処理できることも、ビジュアルスラムの特長です。

  • 特徴点を抽出し、自身の位置を逐次更新
  • 2D/3Dの地図を同時に生成
  • オンボード処理のみで完結(クラウド連携不要)

そのため、即時性が求められる現場作業や自律移動ロボットへの応用に適しています。

屋内や狭い場所でも使いやすい

ビジュアルスラムは、GPSが届かない空間でも安定した動作が可能です。壁や棚など、身近な構造物を特徴点として活用することで、白線やビーコンを使わずとも自己位置を高精度に推定できます。

倉庫内の搬送ロボットや、施設内のナビゲーション用途など、従来のGPSやLiDARが不得手な環境でも柔軟に対応できることが大きな強みです。

ビジュアルスラムの課題と注意点

ビジュアルスラムは、カメラ映像に依存するという特性上、利用環境によっては精度が不安定になる場合があります。導入にあたっては、次のような課題を事前に理解しておくことが重要です。

  • 暗所や特徴の乏しい景色では誤差が出やすい
  • 高速移動時は映像ブレの影響を受けやすい

暗所や特徴の乏しい景色では誤差が出やすい

ビジュアルスラムは、映像内の特徴点を検出・追跡するため、画像の明るさや情報量に大きく依存します。

  • 暗い場所ではノイズが増え、特徴点の検出が困難になる
  • 白い壁など、特徴に乏しい空間では自己位置の推定が不安定になる
  • 特徴点が不足すると、地図の精度も大きく低下する可能性がある

夜間や暗所での運用では、赤外線センサーやIMUとの併用が有効です。

高速移動時は映像ブレの影響を受けやすい

カメラ映像は連続的な画像処理に基づいているため、高速移動や激しい振動による映像ブレが大きな課題となります。

  • 急な動作や衝撃によって特徴点の追跡が失われやすい
  • ブレによる画像の乱れで自己位置推定に誤差が生じやすい
  • スムーズな動作を維持するには、ハード・ソフトの工夫が必要

高速移動を伴う屋外用途では、安定した映像取得のためのマウント設計や補正アルゴリズムの導入が推奨されます。

ビジュアルスラムの主な活用例

ビジュアルスラムは、GPSが届かない環境や、小型機器に組み込む用途に適しています。最後に、代表的な活用シーンを3つ紹介します。

  • ドローンやロボットの自己位置推定
  • AR/VRでの空間認識
  • 屋内マッピングや倉庫管理への応用

ドローンやロボットの自己位置推定

ビジュアルスラムは、小型ドローンや自律移動ロボットに活用されています。

機器が自分の現在地を正確に把握するために必要な技術です。GPS信号が届かない屋内や地下空間でも、カメラ映像から特徴点を抽出することで位置を推定できるため、安定した自律移動が可能になります。

たとえば、お掃除ロボットは建物の構造をカメラで捉えながら、柔軟に移動できます。ドローン分野では障害物を回避しながらの飛行制御にも応用されています。

AR/VRでの空間認識

拡張現実(AR)や仮想現実(VR)の分野では、ユーザーの動きや周囲の環境をリアルタイムで認識する技術が不可欠です。

ビジュアルスラムは、スマートグラスやARアプリに搭載され、周囲の空間を把握します。VRヘッドセットでは、ユーザーの頭や体の動きをトラッキングする際にビジュアルスラムの技術が活用されています。

コンパクトな機器で、仮想空間内での自然な移動や視線追従が可能です。

屋内マッピングや倉庫管理への応用

屋内施設では、位置情報の把握や構造のマッピングが求められます。ビジュアルスラムは、GPSの代替技術として、建物内のナビゲーションや在庫管理に使われています。

具体的には、次のような活用例があります。

  • 倉庫内の棚位置を把握するロボット
  • 工場の構造を3Dで記録するマッピング装置
  • 商業施設内のルート案内や位置情報サービス

建物内の特徴点を取得できるため、安定した測位が可能です。

まとめ

ビジュアルスラムは、カメラ映像から得られる特徴点を活用し、自己位置の推定と同時に周辺の地図を生成する技術です。特にGPSが利用できない環境や、軽量かつ低コストが求められる場面に適しており、屋内ナビゲーション、小型ドローン、ロボット、AR/VRデバイスといった幅広い用途での導入が進んでいます。

従来の衛星測位や大型センサーに依存しない柔軟なシステム構築が可能である点も、ビジュアルスラムの大きな魅力といえるでしょう。

ただし、暗所や単調な景観、高速移動といった条件下では精度の低下やブレによる影響を受けやすく、場合によっては補助センサーやアルゴリズムの併用が必要となるケースもあります。そのため、利用環境と目的を踏まえたうえで、最適なSLAM方式を選定することが、安定した性能を引き出すうえで不可欠です。

当社アジルジオデザインでは、測量・土木・ロボティクス・GIS分野における計測技術の導入支援を行っており、ビジュアルスラムに関するご相談にも対応しています。ハードウェアとソフトウェアの両面から総合的な提案が可能なシステムインテグレーターとして、お客様の現場課題に最適なソリューションを提供します。

ビジュアルスラムをはじめ、測量・土木・位置情報技術に関してお困りの際は、ぜひアジルジオデザインまでお気軽にお問い合わせください。

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